雪国

近頃地球温暖化のため、関東地方は冬でも雪があまり降りません。年を取るとだんだん雪国の新潟が恋しくなります。

昭和55年の10月ごろ、ある朝起きると、窓の外が真っ白になっていました。外に出ると、羽毛のような雪がキラキラ降っていました。「あ!雪だ!」生まれて初めて見る雪だから、とっても興奮しました。同級生の呉君と二人で新潟大学の研究をさぼって、玄関外の駐車場で雪ダルマをつくりました。子供みたいについには雪合戦も始めました。とにかく一日中雪と遊び回りました。疲れたら雪でつくった椅子のうえに座って、口を開いて降ってきた雪をそのまま飲み込みました。28才の大人とはとても思われませんでした。

12月になると、今度は吹雪に出会いました。台風みたいで、雪があちこちから飛んできました。普段優しく見える雪が急に怒りだして、全然コントロール出来ない恐竜やゴジラや大魔神に変わってしまい、人を食べ尽くすように暴れました。傘をさすと、骨組だけ残って、あとは全部消えてしまいました。歩くとき、前が全然見えなくて一歩一歩慎重に前進するので、いつもは5分の道程が30分もかかりました。少し油断すると溝に落ちることもしばしばありました。十日町の雪祭りを見に行く時の事ですが、ときどき人数を確かめないと、急に一人が排水溝に消えているということがしょっちゅうありました。

次の年の1月になると、積もった雪がだんだん硬く凍って道路がすべり易くなりました。歩くときに少しでも注意しないと、ころんで怪我をするというような事が日常茶飯事でした。転倒防止のために雪靴を買いました。そのおかげで、冬でも外に出られました。あの雪靴は現在でも使っていて、とっても暖かいです。

環境に適応するために、人間の体は面白い構造になっていますね!食欲は旺盛になり、また新潟の米と魚が結構美味しかったので、暫らく経つと、体脂肪がどんどん増えて、53kgの体重はすぐに60kgまで増えました。ズボンは入らなくなり、洋服は全部小さくなって、顔も丸くなりました。昼間、大学の研究室に行く時には白衣一枚で充分間に合うようになりました。

4月になって、ある朝、雪がまた降り始めました。僕と呉君二人は玄関前の階段に座って、泣きそうな顔で空に向かって、「雪もうたくさん!」と叫んでしまいました。