第2部 実践編



第2部 実践編
第1章 準備体制の構築
第1節 教室環境の整備
 1 教室備品
 2 コンピュータ関連機器
 3 ソフトウェアの導入
 4 インターネット利用環境の構築
第2節 フレネ教育活動の始動
 1 日課表
 2 自由作文活動
 3 「自由研究」活動
 4 自由学習
 5 「学校間通信」
 6 係活動


第2部 実践編

 第2部では,第1部の諸理論を基盤にして菅原小学校5年1組において試みた実践活動の全容と,それに対する考察を展開する。表2-1-1は本実践研究における活動経過である。平成8年度は理論研究に専念し,平成9年度に実践活動を展開した。

表2-1-1 研究実践の記録

年 度

実 践 計 画

 

 

平成

8年度

 

 

 

 

 

 

 

1996

 

527

 

821

22

128

1997

218

228

3 1

○ 平成8年度は,主にフレネ教育思想と情報教育に関する理論研究を行った。特に,多くのフレネ教育実践家の教室を参観する機会を得たことは,非常に有益だった。

・フレネ教育実践家小川修一教諭の学級を訪問する。

   (埼玉県川越市立今成小)

・中央教育工学セミナーに参加し,インターネットの教育利用に関する研修を受ける。(国立教育会館)

・フレネ教育実践家田中仁一郎教諭の学級を訪問し,多くの示唆を受ける。 (埼玉県保谷市立保谷二小)

・お茶の水大学附属小学校の教育実際指導研究会に参加し,フレネ教育実践家である浅川陽子教諭の学級を参観。

・フレネ教育実践家小川修一教諭の学級を再度訪問する。

・フレネ教育実践家岸康裕教諭の学級を訪問する。

    (埼玉県川越市立上戸小)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平成

 9年度

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1学期

フレネ教育実践

   情

1997

4

 

 

 

 

5

 

 

6

 

 

 

 

 

7 8

・教室環境を整えた。(机やイス

の配置,整理棚や作業台の設置等)

・「自由作文」発表を始めた。

・「学校間通信」のための準備を整えた。

・「自由研究」活動を開始した。

・埼玉県川越市立上戸小学校との「学校間通信」を開始した。(郵送のみによる交流)

・水海道市立絹西小学校及び,熊本県波野村立遊雀小学校との電子メールによる学校間通信を開始した。

・コンピュータを教室へ設置して,利用を開始した。

(ワープロや作画ソフトウェアを利用)

・インターネット環境を構築して,利用を開始した。

 (WWW利用による情報

検索)

・菅原小学校のホームページを開設。

・随時,子どもが電子メールを利用することで交流活動を進める体制を整えた。

・コンピュータ利用実態調査を開始。

      第1回 授業公開

※アルバムに関しては,子どもの進度に応じて作成した。

 

 

 

 

2学期

10

 

 

11

12

・田中仁一郎教諭の学級(東京都保谷市立保谷第二小学校)との「学校間通信」を開始する。(基本的には電子メールによって交流)

・菅原小学校におけるインターネット利用倫理規定の作成。

・インターネットの教育利用に関する意識調査を実施。

・子どものコンピュータリテラシーに対する実態調査を実施。

・電子メールに対しての意識調査を実施。

・コンピュータ利用実態調査の集計と分析。

 

 以下,第1章においては実践を行うための準備体制の構築状況について述べ,第2章においては,研究活動の実際とその情報教育的意義について考察する。最後の第3章においては研究のまとめと今後の課題について述べる。

 

第1章 準備体制の構築

 本章では,菅原小学校5年1組における教育実践のための準備体制づくりについて述べる。本研究は,フレネ教育思想の知見にマルチメディア・コンピュータを活用した情報教育を試みるものである。よって,本研究の中心的な活動はフレネ教育の代表的な活動である「自由作文」,子どもたち自身の発意に基づいた探求活動である「自由研究」,そして電子メール(以下においてはメールと略記する。)を活用した「学校間通信」という3つの活動である。

 しかし,前述したように系統的な知の体系を学ぶ,というこれまでの学習も不可欠である。以上のような理由から,本研究の実践においてはこれまでの教育活動を継続しつつ,そこに本研究独自の活動をとり入れていくという基本方針を採った。

第1節 教室環境の整備

 本節では,教育実践を行うために整えた教室備品とコンピュータ関連機器の設置状況,そしてソフトウェアの導入状況などについて述べていく。

1 教室備品

 教室環境の構成の善し悪しは,そこで行われる学びに大きな影響を与えるものである。特にフレネ教育実践においては,この傾向が顕著である。つまり,環境の構成がこの教育実践の成否に結びついているのである。田中仁一郎は,学びの環境について次のように述べている。

 「子どもたちが興味を持ち,もっとよく知りたい,調べてみたい,確かめたい,できるなら作ってみたいと思ったとき,それをすぐさま可能にする環境が望ましい。」1)

 田中もいっているように,その教室にはいるだけで創造力をかき立てられ,何かしたくてたまらなくなってしまうような環境構成こそが理想的なのである。

 図2-1-1 本実践における教室環境



1
コンピュータNo1 2 コンピュータNo2 3 共同利用整理棚 4 共同利用文房具

5 日本地図 6「学校間通信」用作品箱 7 各種画用紙・色画用紙類 8 ラミネート用機器

9 テレビ(キャスター付)10 ゴミ箱大  11 演台 12 「自由作文」タイトル記入用ホワイトボード

13 日直 14 日課表 15 配膳台 16 金魚・メダカ 17 「自由研究」発表予定表

18 共同利用食器棚・絵の具類 19 給食コーナー 20 個人用整理棚No1 21 個人用整理棚No2

22個人用整理棚No3 23 掃除用具ロッカー 24 ゴミ箱小 25 共同利用図鑑類

26 個人のコーナーNo1  27 背面黒板(行事など)28 個人のコーナーNo2

29 習字の常設掲示板   30 共同利用棚・グローブ・習字用具 31 コンピュータNo3

32 アルバム収納ケース  33 多目的掲示板・電子メール・コーナー 34 「自由作文」掲示板No1

35 「自由作文」掲示板No2 36 係り分担(磁石) 37 地球儀 38 子ども用ロッカー

39 付きフィルム 40 ビデオカメラ 41 ごみ箱大

 次に,図2-1-1にしたがって本実践における教室備品の準備状況を説明する。なお,No1No2,そしてNo31のコンピュータに関しては後述する。

No3 共同利用整理棚

 10段の引き出しで,子どもたちが利用するさまざまな文房具類が納めてある。A4版とB4のコピー用紙,「自由研究」計画記入用紙類,A4版大にした画用紙,アルバムを製本するための用具一式,「自由作文」の完成原稿などである。これらは,No7の各種画用紙・色画用紙類とともにいつでも自由に利用してよいことにした。A4版のコピー用紙は,プリンターの出力用紙なのであるが,子どもたちは罫線がなくて絵が描きやすいという理由から手紙の便せん代わりにも利用していた。A4版の大きさの画用紙は主にアルバム作成のために利用したが,絵を描くためにも使っていた。この棚はキ ャスター付きなので,必要に応じて移動しながら利用できるようになっている。

No4 共同利用する文房具類



 12色のフェルトペンが5セット,ボールペン,定規,コンパス,のり,修正液,ホチキス,セロハンテープ,カッター,両面テープ,大小のはさみなどを用意しておいて,これも自由に利用できるようにした。

No5 日本地図

 板に張り付けてあるもので,必要に応じて移動して利用できるようにした。No37の地球儀とともに「自由作文」の話題の中に世界や日本の地名が出たり,メールを送ってくれた学校の位置の確認などに利用した。

No6 「学校間通信」用作品箱

 相手の学校に送るための個人的な絵や「自由作文」や手紙などを一時的に入れるための学級内郵便ポスト。

No8 ラミネート用機器

 アルバム作成時に自分の作品をラミネート加工するためのもの。作品を専用の薄いフィルムに挟んで,この機械を通すことでラミネート処理される。

No9 テレビ



 キャスターをつけて自由に移動できるようにした。

No10 作業台

 教師用の事務机なのであるが,これを子どもたちの作業台として解放した。この事務机にもキャスターをつけて,必要に応じて移動できるようにした。

No12 「自由作文」タイトル記入用ホワイトボード

 「自由作文」の発表を希望する子どもが,朝のうちにタイトルと自分の名前を記入するためのもの。司会の子どもたちは,このボードをみながら「自由作文」発表の進行をする。

No16 金魚・メダカ

 ある子どもたちの「自由研究」の課題としてメダカと金魚が設定されて以来飼い始めたものである。

No17 「自由研究」発表予定表

 「自由研究」が完了して,発表の準備が整った子どもたちが自らタイトルとメンバー名を記入するためのものである。朝の活動では,この名簿に従って研究成果の発表を行う。

No18 共同利用食器棚

 給食用品の他に,誰でも自由に利用できる8色の絵の具と6個の水入れ,絵の具を溶いておくための皿がある。

No20No22 個人用整理棚



 子どもたち一人ひとりの裁量のもとに利用できる専用の引き出しである。ここは,本人以外は開けてはならない約束になっている。創作途中のアルバムや絵,国語と算数の練習問題のプリント(形成プリント)などを入れているようだ。

No25 共同利用図鑑類

 各自の自宅から不要になった図鑑類を持ち寄ったもの。「自由研究」の際に,必要に応じて図鑑の絵や写真を切り取って利用してもよい。

No26No28 個人のコーナー

 八ツ切り画用紙の広さの個人裁量掲示板である。子どもたちは,思い思いに自分のコーナーを作り上げていた。自らのアイデアを振り絞り,できるだけ多くの友だちに自分のコーナーを見てもらおうとする子どももいれば,1学期間改訂なしのコーナーも存在した。

No29 習字の常設掲示板

 自由学習の際に創作した作品を各自が掲示していくコーナーであるが,個人ごとに進度が異なるために掲示してある作品はまちまちになる。

No32 アルバム収納ケース

 完成したアルバムを分類整理しておく箱である。

No33 多目的掲示板

 現在は,学級に届いたメールの掲示板となっている。「学校間通信」の相手校が,熊本県の遊雀小学校と埼玉県の上戸小学校,そして東京都の保谷第二小学校であるという理由から,熊本県,埼玉県,東京都の地図が貼ってある。相手の学校の位置に印が付けてある。

 

No34No35 「自由作文」掲示板

 常時,「自由作文」を10枚程度掲示してある。1週間に1度,2枚くらいずつ作品を入れ替えている。

No36 係分担掲示板

 学級の係は1週間ごとに変更していくので,全員がほとんどの係を経験することになる。No39No40 レンズ付きフィルムとビデオカメラは,子どもたちが自由に利用できるように用意しておく。家に持ち帰ってもよいことにしてあるために,子どもたちは旅先の写真を撮って紹介したり,「自由研究」や社会の調べ学習のためにも利用した。

2 コンピュータ関連機器

 次に,コンピュータを初めとした情報処理機器の設置状況や導入したソフトウェアなどについて述べる。

 3台のコンピュータを設置した位置は,図2-1-1の通りである。No1No2の2台は,OS(オペレーティングシステム)がWindows95であり,各種のマルチメディアソフトウェアが利用できるものである。No3のコンピュータは10年前に購入したものでOSMS-DOSである。Windowsが 主流となっている現在のコンピュータからみると過去の遺物といえる機種である。しかし,ワープロ程度ならば十分使用に耐えられるし,何よりコンピュータの進化を実感させるという目的から設置しておくことにした。No2のコンピュータには,職員室から電話線を引いて,ダイヤルアップ接続によるインターネット利用環境を構築した。なお,No1およびNo2のコンピュータは,管理上の理由からキャスター付きのコンピュータ・ラックに乗せて移動可能にした。月曜から週末にかけては,教室内に設置したまま施錠のみの保管方法をとり,週末には別室(理科準備室)に移動して保管しておいた。表2-1-2が,今回の実践において利用したコンピュータ関連機器の一覧表である。

 

表2-1-2 菅原小51組におけるコンピュータ関連機器設置状況

番  号

1

2

3

メーカー

富士通

IBM

NEC

機  種

FMV

Aptiva

PC9801VX

O S

Windows95

Windows95

MS-DOSVer34

 

 

主なソフト

Encarta97Encyclopedia

Encarta World Atlas

Creative Writer 2

Word97

Excel97

PowerPoint97

Bookshelf

Encarta97Encyclopedia

Encarta World Atlas

Creative Writer 2

Eudora

Netscape Navigator

一太郎Ver8

一太郎Ver4

 

 

周辺機器

インターネットに接続可能

デジタルカメラ(Fuji Film DS-7

インクジェットプリンター(EPSON MJ-800C

TVスキャンコンバーター

 ところで,今回の実践ではコンピュータの電源は,朝から放課後まで入れたままにしておき,子どもたちがいつでも自由に利用できるようにした。またインターネットに関しても,できるだけ制限せずに自由に利用してよいことにした。カラープリンターも,いつでも自由に利用してよいことにした。 スキャン・コンバーターとは,コンピュータの画面をテレビに映すための機器である。コンピュータのモニター画面は,子どもの作品やインターネットの情報などの画面を学級全体でみようとすると小さすぎる。そこで,スキャン・コンバーターを介して20型のテレビ画面に映し,学級全体でみることができるようにした。

表2-1-3 菅原小学校51組におけるソフトウェア導入状況

 ソフトウェア名

メーカー

種 別

備   考

1 キッドピクス

2 Creative Writer 2

3 Encarta97Encyclopedia

4 Encarta World Atlas

5 Bookshelf

6 ガラパコ゜ス

7 算数ブラスター

8 Netscape Navigator

9 Eudora

10 一太郎Ver8

11 Word97

12 Excel97

13 PowerPoint97

INTERPROG

MICROSOFT

MICROSOFT

MICROSOFT

MICROSOFT

アスキー

Davidson

Netscape

クニリサーチ

JUSTSYSTEM

MICROSOFT

MICROSOFT

MICROSOFT

ワープロ

辞 典

辞 典

辞 典

図 鑑

マルチメディア

ドリル

ブラウザ

電子

ワープロ

ワープロ

表計算
プレゼンテーション

子ども向けお絵かき

子ども向け・

マルチメディア百科事典

マルチメディア世界地図

マルチメディア国語辞典

ガラパコ゜スに関する図鑑

算数の計算ドリルソフト

WWWブラウザ(閲覧用ソフト)

メールソフトウェア

ビジネスワープロソフト

ビジネスワープロソフト

ビジネス表計算ソフト

プレゼンテーション用ソフト

3 ソフトウェアの導入

 次に,今回の実践においてコンピュータに導入したソフトウェアについて述べる。表2-1-3が,今回の実践で利用したソフトウェアである。それぞれのソフトウェアについて,簡単にその機能や特徴を説明する。

< No1 キッドピクス >

 子ども向け,マルチメディアお絵かきソフトウェアである。おしゃべり文字やたくさんのスタンプ,不思議な絵筆,絵を消すためのダイナマイト,その他のさまざまな仕掛けなど,楽しい道具が豊富に用意されており,楽しく絵が描けるようになっている。すべての動作に愉快な「音」がついているマルチメディアソフトであり,子どもたちに最も人気のあったソフトウェアである。

< No2 Creative Writer 2 >



 子ども向けのワープロソフトである。子どもが操作しやすいよう,さまざまな工夫が凝らされており,子どもにとって非常に使いやすいソフトウェアであった。このソフトには,各種のカード,パーティーのお知らせ,ポスターなど,多数のサンプルやイラスト,音などが用意されており,簡単に手紙や作品を作ることができる。また,作品に音楽をつけてメールで送ったり,インターネットのホームページをつくることも可能である。思いつくままに,さまざまなものを手軽に次々とつくれるアイデア・ワープロである。

< No3 Encarta97Encyclopedia >



 マルチメディア百科事典である豊富な写真や映像,音声を伴った膨大な情報が1枚のCD
-ROMに納められており,単語を入力することで簡単に検索することができるようになっているバージョンアップ後のエンカルタ98では,インターネットとのリンクが10万カ所も施されているので,さらに膨大な情報を得ることができるようになった

< No4 Encarta World Atlas >



 精細な世界地図と豊富なデータを備えた,マルチメディア世界地理百科である100万ヵ所に及ぶ地名や写真,音声や動画などが含まれた詳細な地図を,地球儀のような球面データとして収録してあり,マウスをクリックしたり,地名で検索したりすることで調べることができるようになっている

< No5 Bookshelf >



 国語大辞典,英和辞典と和英辞典,類語例解辞典,故事ことわざの辞典,そして最新用語事典データパルという6種類12冊の辞書を,1枚のCD-ROMに収録したマルチメディア統合辞典であるやはり,たくさんのサウンドや動画が収録されている

< No6 ガラパゴス >

 ガラパゴス諸島に住む,各種の動物や自然環境を動画や写真,音声を織り交ぜながら紹介するマルチメディア図鑑である。

< No7 算数ブラスター >

 ロールプレイングゲーム感覚で,遊びながら計算ドリルができるソフトウェアである。加減乗除の四則演算,小数,分数,数列,割合など,さまざまな問題が,3段階の難易度別に多数用意されているので,小学校1年生から中学生まで利用することができる。

< No8 Netscape Navigator >



 WWWの閲覧ソフトウェアである。本実践においては,当初Version 3.01日本語版を利用していたが,2学期からはVersion 4.01に移行した。

< No9 Eudora >

 メールのソフトウェアである。このソフトには,写真などを送る機能はもちろん,届いたメールを差出人別,内容別などに分類ができる機能があり,非常に便利であった。また,インターネットへのダイヤルアップ接続を自動化してあり,子どもたちでも容易にメールの受信作業ができるようになっている。

4 インターネット利用環境の構築

 本実践においては,インターネット利用環境が不可欠である。そこで,実践に先立ちインターネット利用環境を構築した。まず,学校と水海道市教育委員会に対する支援の要請を行った。校長と教頭の承認を得た後にその指導を仰ぎ,水海道市教育委員会に対してインターネット利用申請書を提出した。(資料2-2)申請書には,「インターネットの教育的意義」「本年度の本校の取り組み」「インターネットの具体的な活用法」「インターネット利用における経費的見積もり」などを記述した。申請書を提出後から約1週間後,市教委から「菅原小学校におけるインターネット利用を了承すること」「経費のうちの通信費を市が負担すること」という連絡があり,インターネット利用に対する支援を得ることができた。

 次に取り組んだのが,インターネットにおける「菅原小学校のホームページ」の作成にである。理論編でも述べたように,インターネットは「情報の海」である。だから,子どもたちが何の目安もなしにインターネットを利用することは困難であると考えたからである。さらに,このホームページの開設には他にもいくつかのねらいがあった。ひとつは,子どもたちの作品をインターネットで公開することで,学校外のさまざまな人たちからの感想や助言を得るという目的である。また,もうひとつのねらいは,職員の研究成果や実践記録のインターネットによる公開である。それによって学校外の意見や助言を募り,それを参考意見とするためである。このような理由から,子どもたちがインターネットを利用するための窓口として利用できるようなホームページを作成した。



 何より重視したことは,情報収集の容易さであった。子どもたちの利用しやすいリンク集をホームページ上に構築したり,それとは別に「自由研究」における要望に応えるために「自由研究」のコーナーを設けた。つまり,教師があらかじめ要請された情報源をリンク集として用意しておいて,必要に応じて子どもたちが利用するという試みである。(資料2-1)

 ところで本実践においては,インターネットを利用するにあたり,「インターネット利用における校内規定」の作成にとりかかった。理論編において述べたように,今日,インターネットの教育利用に関して,さまざまな危険性が指摘されている。インターネットにおいて子どもの氏名が不用意に公開されたとしても,それが犯罪行為の引き金になる可能性は低い。しかし,それが「絶対ない」と断言できないこともまた確かである。また,教師が独断で子どもの情報を公開して,それが彼らの人権を侵害する可能性もないとはいえない。今回の実践では,子どもたちの人権を守りながらもインターネットを最大限教育に活用することをめざしている。万が一,インターネット利用に関してトラブルが発生した場合でも迅速に対処できる体制を構築しておく必要があるという理由から,「インターネットの教育利用に関する校内規定」を作成した。

 我が校におけるインターネット校内規定を作成するにあたっては,東京都目黒区と区立第六中学校の内規,さらに滋賀県長浜市立北中学校の校内規定を,それぞれの学校の了承をとった上で参考にした。東京都の目黒区は,区内の公立学校におけるインターネット利用に関する規程を「区立学校におけるインターネットの利用に関する要綱」(資料2-3)として明示している数少ない自治体である。また,滋賀県長浜市立北中学校の校内規定は,弁護士をはじめとした専門家が作成した規定である。これら先進的な実践例を参考に「インターネットの教育利用における内規」の試案を作成した。その後,内規の原案は運営委員会での協議を経たあと職員会議において承認され,「菅原小学校におけるインターネット利用の校内規定」として正式に運用されることとなった。(資料2-4)

 さらに,本実践では職員に対するインターネットの理解と啓蒙を図るため,インターネットの教育的な意義や利用方法,教育上配慮すべき事項,そして利用規程の必要性についての研修を行った。具体的な研修内容は「コンピュータ・ネットワークとしてのインターネットの概要や特質の説明」及び「代表的なソフトウェアとその機能についての研修」であった。なお,とり上げたソフトウェアは「メール」と「メーリングリスト」,そして「WWW」である。インターネットを教育利用する良さと危険性について把握できるように,具体的な事例紹介も含めた研修を行った。特に,インターネットの危険性については利用規定の存在意義そのものにかかわるだけに,職員全員が十分理解できるよう配慮した。資料2-5はインターネットに関する研修の際に利用した資料である。

 次に,保護者に対するインターネットの理解と啓蒙について述べる。職員の場合と同様に,保護者に対してもインターネットに関する理解や啓蒙を促進するために資料を配布したり,授業参観などでインターネットを利用した学習をみてもらう機会を設けた。なお,資料を作成するにあたってはコンピュータ関連の専門用語をできるだけ避けて,すべての保護者に理解できるような文面となるよう配慮した。資料2-6が保護者向けに作成した資料である。また今回の実践では,保護者のインターネットに対する意識や教育利用に関する考え方を調べるために,全保護者を対象に「インターネットの教育利用に関する意識調査」を行った。その調査結果と,それにたいする考察については後述する。

第2節 フレネ教育活動の始動

 前述したように,本実践においてはこれまでの系統学習的教育活動とフレネ教育的実践の両立をめざしている。当然のことながら,カリキュラムにも特別の配慮が必要であるし,「自由作文」や「自由研究」などの活動を軌道にのせる必要がある。本節においては,これらの活動の具体的な運営方法について述べていく。

1 日課表

 図2-1-2は,本研究を実践するにあたって作成した日課表である。「自由作文」発表は,月曜から土曜日にかけての朝の会終了後に行った。また,火曜日と土曜日の1校時と2校時(★印)を,フレネ教育実践としての「自由研究」や自由学習の活動時間とした。なお,これらの時間は国語,図工,学級活動,書写のそれぞれをあてることとした。その理由は,これらの教科における学習内容が「自由研究」及び自由学習活動において代替可能と判断したからである。

2 自由作文活動

 「自由作文」はフレネ教育実践の中心的な活動である。図2-1-3は,「自由作文」活動の流れである。子どもたちに対しては年度当初から,友だちに知らせたいことや自慢したいこと,身の回りに起きたできごとや驚いたことなどがあれば,いつでも「自由作文」を発表してよいことを説明しておいた。家族と一緒に旅行に行ったこと,下校途中に起きた事件,家で遊んだこと,友だちに見せたい宝物など,題材に関しても何ら制限を加えることはなかった。子ども全員に無罫線のノートを用意し,それを「自由作文ノート」として利用させた。そこに数行の文章と絵を織り交ぜながら,自らの思いを綴っていくのである。もちろん,発表前に文章や絵に対しての教師による指導を行うことはない。なぜなら,教師の指導によってその作品が子どものものではなくなるからである。教師も,他の子どもたちと同様に一聴衆として発表会に臨む。発表が終わると,級友からの質問をうける。聴衆の心をとらえた発表ほど質問が多い。発表がすべて終わると「最も自分の興味を引いた作品に挙手する」という方法で,その日の代表作品を決定する。決定した作品はコンピュータか手書きのどちらかの方法で作品を仕 上げる。この代表者は優先的にコンピュータを利用できることにした。



 現在のところ,選ばれた「自由作文」のすべてがコンピュータ(Creative Writer)で入力されており,手書きの作品はない。コンピュータに入力し終わってプリントアウトした作品は,教師が印刷して学級に配布した。

図2-1-2 本実践における日課表



図2-1-3 菅原小学校5年1組における「自由作文」活動の流れ

 各自の発意に基づく「自由作文」の作成(もちろん自由)

     

  発表希望者は,小黒板に題名と氏名を記入する

     

   朝の会直後に発表会をひらく(発表→質疑応答)

     

  代表の選出(挙手)

     ↓

   代表者のみが作品作成(コンピュータでも手書きでも可)

     

   教師が印刷し,学級全体に配布

     

    各自が作品を鑑賞した後に,綴りに綴じて保管する。

     

  作品の廊下などへの掲示

3 「自由研究」活動

本実践においては,「自由研究」と「自由学習」という,子どものイニシアチブ(initiative)に基づいた2つの活動を試みた。(図2-1-2の日課表の★印)

 

現在利用している自由研究の計画表 (資料2-7)



 「自由研究」活動は,その名の通り自らの設定した研究テーマを追求していく活動である。個人研究として進めてもいいし,同じ研究テーマの人がいればグループ研究として進めてもよいことにした。研究テーマが決定したら研究計画を立てて,いろいろな手段による情報収集・分析を進め,研究が終了したらそれをアルバムとしてまとめていく。本実践においては,子どもたちが研究の構想や見通しを立てたり,活動経過を記録するために「自由研究」の計画表を用意した。計画表には,情報教育的な意義を分析するために研究活動の中で利用したメディアも記録しておくように指示した。

 なお,この計画表は固定的に捉えることなく,より利用しやすい計画表の在り方を追求して改善していった。資料2-7は,活動開始当初から2回の改訂を経て現在に至るまでの「自由研究」計画表の移り変わりである。 

 「自由研究」の時間内は,画用紙や模造紙はもちろん,コンピュータやインターネット,カメラ,ビデオなども自由に利用させ,図書室や校庭への移動やトイレに関してもできるだけ制限を加えなかった。教師は子どもたちの物品や情報に関する要望に応じたり,研究活動に対する助言を与えるなどの支援活動に専念した。「自由研究」が終了して,研究成果発表の準備が整ったグループから順に朝の会において成果を発表していった。

4 自由学習

 自由学習は,教師の与えた学習課題を消化していくいわば「自主学習」である。「自由研究」が,すべて子どもたちの発意に基づいた活動であるのに対して,自由学習の内容は教師が規定した。

 自由学習は,前述した教育における「不易と流行」の「不易」にあたる学習である。内容としては,習字や「算数の練習」(問題集),国語と算数の形成プリント(ドリル問題)などである。それらを,通常2週間という期間内に進めていくことにした。

自由学習の計画表



 なお,該当時間(図2-1-2の日課表の★印)内ならば,「自由研究」と自由学習はどちらにとり組んでもよいことにした。自由学習の進行状況は,自由学習予定表に記録させて教師が進行状況を把握するための資料とした。

5 「学校間通信」

 「学校間通信」は地域の異なる学校同士の文化交流活動である。つまり,「自由研究」の成果や「自由作文」,絵や作文などの学びの成果を相互に交換することで,異なる地域の遊びや流行,産業,自然などの文化交流を図る活動である。本実践においては,メールと学習成果物の組み合わせによって何通りかの「学校間通信」を実施した。

 水海道市立絹西小学校と鹿島市立中野東小学校とはメールのみの交流を行った。熊本県阿蘇郡波野村立遊雀小学校の3,4年生(複式学級)と,田中仁一郎教諭の学級(東京都保谷市立保谷第二小学校の6年)とは,メールと学習成果物の双方の交流を行った。埼玉県川越市立上戸小学校の5年生とは学習成果物のみの交流を行った。

 メール



 メールの受信は係を設けて子どもたち自身で実行したが,送信については教師による指導の必要性から原則として教師が行うこととした。子どもの手紙を教師が指導しようと考えた理由としては,次の2点をあげることができる。まず一つは,子どもの書く手紙に不用意な発言や不適切な表現が多く,それが相手に不快な思いをさせたり誤解を招く可能性があるということ。もう一つは,メールの場合は送信ボタンを押してしまうとあっという間に先方に届いてしまうので,失敗してもとり返しがつかないという理由である。

6 係活動

フレネ教育思想においては,学級の自治活動を可能な限り子どもたち自身の手に委ねるという側面がある。本実践においても,この理念をできる限りとり入れるよう配慮した。特に,係活動においては発足や廃止にいたるまで,運営のほとんどを子どもたちの手に委ねた。ただし,「自由作文」の司会とメールの係だけは存続していくよう子どもたちに要請した。係活動は,1週間ごとに変えていくことにし,週末に翌週の係を決めることにした。二学期を終了した時点での係活動は「司会」「黒板」「給食」「準備」「絵本」「メール」「生き物」「保健」の8つであった。特に,「司会」「絵本」「メール」の係は,本実践ならではの係である。「司会係」は,毎朝行う「自由作文」発表の進行係である。「絵本係」は,子どもたちが創作した「自由研究」や物語の冊子を学校中に紹介して読んでもらうために広報活動を行う係である。「メール係」は,朝にメールの着信状況を確認して,もし届いていたらプリンターで印刷し全員に紹介したり,個人宛の場合は本人に渡したりするための係である。

 

実践編 第1章 - 註 -

1) 田中仁一郎『教室を変える』青木書店,1993,p.126.