混声合唱組曲
ひたすらな道
作詩 高野 喜久雄  作曲 高田 三郎


3.弦(いと)
いま わたしは願う
わたしはただの弦(いと) ひとすじの切なる弦でありたいと
その両はしが 何んであれ
苦しいわたしの何んであれ
ひたすらに 問いも忘れ ことばも忘れ
きびしく 逆(さか)向きの力に耐えて張られたただの弦
ぎりぎりの力で張られ
ぎりぎりの力で踏み耐える
ぎりぎりの 弦のいのちをいのちとしたいと

そして わたしは わたしをつまびく
きこえるうちは駄目なのだ 未だ駄目なのだ!
最も高い音は 音として
誰の耳にも きこえてこない
あのきこえない高さで 鳴りひびく弦
また その高さに耐える弦
けっして切れず
けっしてひるまず
けっして在るわけ 張られたわけをうたわない弦
あかしはいつも この弦の
この非常なたかさからのみやってくる
とおもわれてならない とある夕暮
いなごのような眼をつむる
傷口のような口を閉じ
そしてわたしはいちずにおもう
あの弦だ
人の耳にはただの沈黙
ただの唖としてしか ひびかない弦
あのいのちこそ いのちとしたいと