混声合唱組曲
                    
海の詩(うた)
                    
作詞 岩間 芳樹  作曲 広瀬 量平


            海の匂い                         
                        あの春の あの朝
                             鈍行列車を待った 無人駅
                             おれたちは 都会へ向った
                             窓辺につづく 渚から
                             顔をそむけたのは
                             涙を こらえるためじゃない
                             不安が 不安が つのるんだ
                             膝にかかえた ボストンバック
                             海の匂いが まだ残る

                             あの冬の 雨の夜
                             コンクリートの冷たい 谷間に
                             ただひとり背を向けて歩く
                             訪ねた友に 笑みはなく
                             黙りつづけたのは
                             話がとぎれたからじゃない
                             想いが 想いが こもるんだ
                             手紙をくれよ 気がむいたらな
                             海の匂いを くれという

                             あの夏の 日ざかり
                             魚を追って じいちゃんと ふたり
                             荒波を 沖の瀬に 向かう
                             なぜ帰ったか 聞かれても
                             にやにやしていたのは
                             答えがなかったからじゃない
                             怒りが 怒りが こみあげる
                             獲物を消した貧しい海に
                             海の匂いは いまはない
                          
                             ふるさとは 海の村には
                             もう 若者を育てる力がないという