[資料6−7 再審開始決定要旨


平成13年 (た) 第1号

請求人 櫻井 昌司   

同 上 杉山 卓男   

 決 定 要 旨

( 主  文 )

  本件について、請求人両名との関係で、それぞれ再審を開始する。

(理由の要旨)

1 事件の内容

 本件は昭和42年8月30日、茨城県北相馬郡利根町大字布川にあった家屋内で大工を営んでいた被害者が死体で発見され、強盗殺人事件として捜査本部が設置されて捜査された事件である。請求人櫻井昌司( 以下「櫻井」という。)及び同杉山卓男( 以下「杉山」といい、櫻井と杉山を以下「請求人ら」という。)は、強盗殺人事件の被告人として起訴され、第1審で、別件との併合審理の上、強盗殺人事件を請求人らの共同犯行と認定されてそれぞれ無期懲役の判決を受け、同判決は控訴棄却及び上告棄却を経て確定した。

 請求人らは、昭和58年12月にそれぞれ再審請求したが、同請求はいずれも棄却されて確定しており、本件は第2次再審請求である。

2 確定判決の有罪認定の根拠

 確定判決が請求人らを強盗殺人事件の犯人と認定した証拠構造によれば、請求人らと本件犯行とを結び付ける直接証拠は、請求人らの自白調書のみであり、自白以外の証拠は、請求人らの自白の信用性を担保するものであって、これらのうち本件犯行に近接した時間帯・場所で請求人らを目撃したとするA,B,C,D,E及びFの公判供述又は刑事訴訟法312条1項2号書面( 以下「6名の供述」という。)が、自白を離れた状況証拠として請求人らの有罪認定を支えるものであった。

 もっとも、6名の供述は、その目撃日時・場所との関係から、犯行状況に関する請求人らの自白を直接補強するものではなく、自白を離れた状況証拠としての証拠価値も限定的であるため、本件再審請求においては、新証拠により請求人らの自白の信用性が動揺することになれば、確定判決の有罪認定もまた動揺せざるを得ない関係にあるというべきである。

3 殺害行為の方法及び順序の検討

 当裁判所は、本件再審請求の審理に当たり、まず、殺害行為の方法及び順序という罪体の中心部分かつ自白の枢要部分に関する再審請求理由について、弁護人から提出された木村康医師による鑑定( 以下「木村鑑定」という。)等を検討することとした。

 この点について、確定判決は「請求人らが被害者の口の中に布(パンツ)を押し込み、櫻井が被害者の頸部に布(パンツ)を巻きつけてその上から両手で喉を強く押して扼した」旨認定しているところ、これは「杉山が被害者の口の中にパンツを押し込み、その後、櫻井が両手で喉を強く押して扼した」とする点でほぼ一致する請求人らの自白を直接証拠とし、秦資宣医師による鑑定書( 以下「秦鑑定書」という。)をその鑑定主文の限度で裏付け証拠として用いたものと考えられた。

 ところが、当裁判所がその信用性を認めた木村鑑定等を、確定審で取り調べられた秦鑑定書等の各証拠及びその他当請求審で提出された証拠と併せて検討すれば、被害者の死体には、請求人らの自白が真実であれば認められるはずの扼頸(手で首を強く押さえたこと)を示す所見が認められず、それどころか絞頸(パンツで首を絞めたこと)の所見が認められる可能性が高いのであり、さらに、絞頸が先で、被害者の口腔内にパンツを詰め込む行為が後に行われたとの合理的な疑いをも生じるに至った。

 したがって、木村鑑定等が確定判決を下した裁判所の審理中に提出されていたならば、請求人らの自白は、殺害行為の方法及び順序という自白の枢要部分において、死体の客観的状況と矛盾する可能性が高く、その信用性に動揺を来すことになるから、確定判決のような殺害行為の方法及び順序を認定できたかどうか疑問を生じるものといわざるを得ない。

 そうなると、請求人らの自白全体の信用性にも動揺を来すものといわざるを得ないから、その枢要部分の信用性を減殺された請求人らの自白が確定判決における有罪認定を維持し得るほどの信用性を有するかを全面的に再検討する必要が生じた。

4 自白以外の証拠の検討

 まず、当裁判所は、請求人らの自白の信用性を検討する前提として、自白以外の証拠が、自白の補強証拠として請求人らの自白をどの程度補強しているのか、また、特に6名の供述が、状況証拠として請求人らと本件犯行との結び付きをどの程度支えているのかについて新証拠を併せて再検討した。

 そして、当裁判所の検討結果によれば、A,B,C,D及びEがそれぞれ請求人ら又はそのいずれかを目撃したのが果たして8月28日であったかについて疑問が生じ、Fが被害者方付近で目撃した人物が請求人らであったかについても、疑問が生じるとともに、請求人ら以外の者が本件犯行の犯人であったとの可能性をたやすく否定できないことも明らかになった。

 結局、6名の供述は、請求人らと本件犯行とを直接結び付ける自白を離れた状況証拠としての証拠価値を喪失し、自白の補強証拠としての価値も著しく減殺されており、その他の確定判決が自白の信用性を補強するものとして掲げた自白以外の証拠も含め、いずれもその枢要部分の信用性を減殺された請求人らの自白の信用性を積極的に増強するものではないことが判明した。

5 自白の検討

 そして、当裁判所は、請求人らの自白を全面的に再検討するに当たり、まず自白に至る経緯と自白の動機について新証拠を併せて検討した結果、少なくとも請求人らの自白が虚偽の自白を誘発しやすい状況の下でなされた疑いがあることを否定できないことが判明し、更に請求人らの自白の個々の供述内容を新証拠も加味して精査したところ、請求人らの自白は、

@ 犯行に至る経緯から逃走状況に至るまであらゆる点で看過し得ない供述変遷が認められ、捜査官の誘導に対する迎合供述ではないかと疑われる点が多数存在すること、

A 最終的な自白内容には、客観的事実に符合しない可能性がある部分、その内容自体が不自然、不合理であり、又は、犯人であれば当然説明してしかるべき事項について十分な説明がされていない部分、関係者の供述と一致しない部分、請求人らの間で供述内容が一致しない部分が存在すること、

B 自白によれば、あってしかるべき客観的事実の裏付けを欠いており、秘密の暴露も見当たらないこと、

C 自白を録音したテープ3本は自白の信用性を増強するものではなく、その他自白の信用性を著しく増強させる証拠も存在しないなどの問題点を多々内包していることも判明した。

 したがって、請求人らの自白は、罪体の中心部分かつ自白の枢要部分について信用性が動揺していること、請求人らと本件犯行とを直接結び付ける状況証拠や自白の信用性を著しく増強させる自白以外の証拠を欠いていることなどの問題点を無視しても差し支えないほど高度の真実性を担保するものがあるとは到底認められないから、結局、請求人らの自白には、それだけで請求人らが本件犯行の犯人であると合理的な疑いを容れない程度に認めるだけの証明力はないものといわざるを得ない。

6 結  論

 以上によれば、当裁判所がその証拠価値について検討し、信用性を認めた木村鑑定等の新証拠が確定判決を下した裁判所の審理中に提出され、これと既存の全証拠と総合的に評価すれば、確定判決の強盗殺人事件についての有罪認定に合理的疑いが生じたものとみとめられ、請求人らに対し、強盗殺人事件について無罪を言い渡すべき明らかな証拠をあらたに発見したときに該当するというべきであるから、請求人両名との関係で、それぞれ再審を開始する。

  ※ PDF資料

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