えん罪事件簿  2003年版


※ 自白の任意性を否定、検事調書不採用 (2003.1.30)

 日経新聞(NIKKEI NET)の1月30日付紙面に次のような短い記事が掲載されました。

「 千葉県で強姦(ごうかん)罪に問われた男性被告(23)の公判で、千葉地裁(下山保男裁判長)が男性の検事調書の任意性を認めず、証拠採用しなかったことが、30日までに分かった。

 男性の弁護人によると、取調べの際に検事が『 自白したら3年、否認したら8年 』と書いたメモ用紙を見せ、容疑を認めれば刑が短くなる、と自白を促したという。

 検事は証人として出廷し『 一般論として量刑を説明した 』と反論したが、下山裁判長は調書の任意性を認めなかった。

 この事件では7人の被告のうち、捜査段階で男性を含む4人が容疑を認めたが、公判では全員が否認に転じている。」

― この事件の記事は<共同通信社>から配信されたものらしいのですが、他の新聞では全く取りあげてないので事件についての詳細は何も分かりません。さらに、まだ公判中で結審もしていない事件なのですが、とても重大な問題を含んでいるので、敢えてこのコーナーで取りあげることにしました。

 この男性が捜査段階で<容疑事実>を認めたのは、おそらく取調べの際に検事から見せられた『 自白したら3年、否認したら8年 』という、<自白>を促すメモが原因だったのは明らかです。その意味では、下山裁判長の採った措置は非常に賢明なことで、称賛に値すると思います。

 一般に、密室の中で混乱状態に陥っている容疑者は、この詐欺的行為とも言える<取調官>の言葉に惑わされてしまうようです。この『 自白したら3年、否認したら8年 』という言葉は、とても<一般論>と呼べるようなものではなく、藁(わら)にも縋(すが)る思いの容疑者に<自白>を強要しているとしか思えません。

 <布川事件>でも、桜井さんが早瀬警部補から「 (否認したら) 死刑もある 」と言われたことが、<嘘の自白>をした原因の1つになっています。このような<取調室>での立場を利用した<脅迫>ともとれる言葉が、新たな<えん罪事件>を生み出す要因になっていると言わねばなりません!

 <えん罪事件>の再発を防止する為には、早急に何らかの対策が望まれます!


※ ロス疑惑・三浦被告に無罪確定 (2003.3.6)

 1981年、米国ロサンゼルス市内で妻の一美さん(当時28才)を銃撃して殺害し、多額の保険金をだまし取ったとして殺人罪などに問われ、控訴審の東京高裁で逆転無罪となっていた元雑貨輸入販売会社社長・三浦和義被告(55)の上告審で、最高裁第三小法廷は5日付で、高裁判決を不服とする検察側の上告を棄却する決定をしました。以下、3月6日付朝日新聞(asahi.com)の記事から ・・・。

 最高裁第三小法廷の金谷利広裁判長は、決定理由の中で「 三浦被告が氏名不詳者と共謀して元妻を殺害したと認めるには、なお合理的な疑いが残るとした高裁判決は是認することができる 」と述べ、事件発生から20年以上に及ぶ裁判に終止符を打ちました。

 この事件は、いわゆる『 ロス疑惑 』として一時期、新聞・テレビ等を賑(にぎ)わせましたが、当初から「 物証や自白など犯行を裏付ける直接証拠が全くなく、検察側が積み重ねた状況証拠をどう評価するかが激しく争われる中、実際に銃撃役となった共犯者 」が誰だったのかという点が最大の謎になっていました。

 「 検察側は88年の起訴以来、『 共犯者は元駐車場経営者 』と主張 」して来ましたが、「 一審・東京地裁は元経営者を殺人については無罪としながら、共犯者として『 氏名不詳の第三者 』を持ち出し、三浦被告を無期懲役 」とする判決を言い渡しました。

 これに対し、控訴審の東京高裁は「 検察官も主張していなかった『 氏名不詳者との共謀 』を突然認定した一審判決には、被告の防御の観点から考えると手続き上の違法がある 」とした上で、「 三浦被告周辺の証言などの状況証拠を詳細に検討し、『 被告が実行犯に銃撃を指示したと認定できる確かな証拠はなく、有罪とするには合理的な疑いが残る 』と判断 」して、一審判決を破棄し、改めて無罪を言い渡しました。

 この判決を不服とした「 検察側は、『 一審判決に手続き上の違法はなかった 』と強調 」し、「 違法があったとする高裁判決には最高裁判例違反があると主張 」して、上告していました。

 この点について「 第三小法廷は『 事案を異にする判例を引用するもので、適切ではない 』と 」して、退けています。

 なお、「 当初銃撃の実行犯とされた元経営者には一審、二審とも無罪が言い渡され、検察側が上告しなかったため 」既に無罪が確定しています。

 また、「 三浦被告は、銃撃事件での逆転無罪判決を受けていったん釈放されたが、銃撃事件の3カ月前、元女優に一美さんを襲わせ、殺害しようとしたとして殺人未遂罪に問われた『 殴打事件 』で98年10月に懲役6年の実刑判決が確定。同年11月に収監され、未決勾留(こうりゅう)日数を差し引いた約2年2カ月の服役を経て、01年1月、宮城刑務所を出所 」しています。

 翌6日に行われた記者会見で、三浦和義被告は『 ロス疑惑報道とは何だったんですか、と(マスコミに)聞きたい。警察の発表をうのみにして、裏付けを取らない報道がいまも多い。事実が何かをわきまえて報道してほしい 』と述べ、これまでの<事件報道>のあり方について、大きな疑問を呈しました。


※ 強制わいせつ被疑事件で無罪判決 (2003.4.15)

 2000年6月に、茨城県阿見町で顔見知りの女性(当時29)にわいせつな行為をしてケガを負わせたとして、強制わいせつ致傷の罪に問われた、元東京医大助教授で元同大霞ヶ浦病院口腔外科部長の山田容三被告(44)に対する判決公判が15日、水戸地裁土浦支部で開かれ、無罪(求刑懲役3年)が言い渡されました。以下、4月16日付毎日新聞と茨城新聞の記事から ・・・。

 同支部の彦坂孝孔裁判長は、判決理由の中で「 被害者の供述には、わいせつ行為の内容や傷害の有無などの重要な部分に多くの疑問があり、被告の供述は信用性を否定しきれず、公訴事実には合理的な疑いがある 」と指摘して、警察・検察の杜撰(ずさん)な捜査を浮き彫りにする結果となりました。

 山田被告は2000年6月17日午前0時半頃、同町内に住む知り合いの女性宅で、この女性にわいせつ行為をしようとして抵抗され、腕や足に約2週間のケガを負わせたとして、同8月土浦署に婦女暴行の容疑で逮捕され、強制わいせつ致傷罪で起訴されていた。

 山田被告は、公判を通じて起訴事実を全面的に否認、「 (女性に)わいせつ行為を企てたり、傷害を与えたことはない 」などとして、一貫して無罪を主張して来ました。

 判決後、山田被告の弁護団は、「 証拠に基づき、公平な判断を示した裁判所に敬意を表する 」と判決を高く評価した上で、「 警察や検察は予断を持ち、女性の供述のみに頼り過ぎた 」などとして警察側の初動捜査を厳しく批判しました。


※ 強制わいせつ被疑事件で無罪確定 (2003.5.1)

 強制わいせつ致傷罪で起訴され、4月15日に水戸地裁土浦支部で無罪判決を受けた、先の元東京医大助教授で元同大霞ヶ浦病院口腔外科部長の山田容三さん(44)に対して、水戸地検は5月1日、控訴を断念したと発表し、山田さんの無罪が確定しました。以下、5月2日付の朝日新聞の記事から ・・・。

 同地検の五島幸雄検事正は、「 検察官の主張が認められず、無罪の判決が言い渡されたことは残念だが、判決内容を十分に検討し、証拠関係を改めて精査した結果、控訴しても原判決を覆(くつがえ)すことは困難と認められたため、控訴を断念した 」とのコメント。

 これに対し、山田さんの弁護団は、「 被告人の被害は実に甚大。(当初から)警察、検察の捜査が公正適切に行われていれば、到底起訴できなかったはず。あまりに不自然な捜査で、検察が警察の捜査を確認する本来の仕事を怠った結果だ 」として、改めて警察・検察の怠慢な捜査に対して厳しい批判を加えました。


※ 夫の無実訴え最高裁に手紙、狭山事件 (2003.5.23)

 5月23日付の朝日新聞(asahi.com)に、次のような記事が掲載されました。

「 狭山事件で無期懲役が確定した後も、部落差別による冤罪だと訴えて再審請求している石川一雄さん(64) =仮出獄中= の妻早智子さん(56)が23日までに最高裁を訪れ、夫の無実を訴える思いをつづった手紙を担当判事あてに提出した。全証拠を明らかにしたうえで裁判をやり直すよう要請した早智子さんに、裁判所側は『 判事に必ず伝える 』と話した。

 32年余に及んだ獄中生活の影響もあり、ここ数年、急速に体が弱ってきた一雄さんを、早智子さんは心配する。再審への思いを何とか裁判官に分かってもらいたいと、友人でルポライターの鎌田慧さんらに相談。直接、判事あての手紙を書くことにした。・・・・

 最高裁に手紙を出した後、早智子さんは、『 検察庁には未開示証拠が数多くある 』としたうえで、『 すべて(の証拠)を明らかにしてから判断して下さいというのは間違ったお願いでしょうか 』と話した。」

― ここにも冤罪に苦しんでいる人たちがいます。そして、その人たちのささやかな願いは、『 すべて(の証拠)を明らかにしてから判断して下さい 』という、ごくごく真っ当な、本当に当たり前のことなのです。

 早智子さんのこの小さな願いは、<最高裁>の奥深くにある風呂付きの豪華な特別室の<住人>に果たして届くのでしょうか・・・?

 <布川事件>でも、同じような<未開示証拠>がダンボール箱に9箱もあるそうですが、まだ検察庁の蔵の中に眠ったままで日の目を見ていません。一般人の常識からすると、『 見られちゃマズイもの 』を隠しているとしか思えません!

 最近、裁判所改革の1つとして、重大な刑事裁判の審理に一般市民も参加するという『 裁判員制度 』のことを良く耳にします。趣旨としては賛同するものの、一般の国民に認知されて<制度>として定着するようになるまでには、きっと気の遠くなるような年月を要することでしょう!

 このところの不祥事続きで、<地底の底>にまで沈んでしまった<裁判所の権威>を回復するのに外部の力を借りるのも結構ですが、自らの手で、それも短時日の内に出来ることがあるのに当のご本人は気付いてないのでしょうか・・・?

 それとも、ヒビだらけの<権威>が邪魔をして出来ないのでしょうか・・・?

 その昔、<畑の肥溜(こえだめ)に押し込んで、無理やりフタをしてしまった<裁判>にもう一度光を当てて、格調の高い判断を下した時、自ずと国民の間に称賛の惜しみない拍手が湧き起こることでしょう!


※ 痴漢冤罪事件で無罪判決確定へ (2003.5.28)

 2002年9月に、札幌市営地下鉄南北線の車内で痴漢行為をしたとして道迷惑防止条例違反の罪に問われ、今月9日に札幌地裁で無罪判決(求刑懲役4カ月)を受けた同市南区の会社員の男性(28)について、札幌地検は21日までに控訴しない方針を固めた模様。以下、5月28日付の朝日新聞(asahi.com)・北海道版の記事から ・・・。

 地裁判決は、その判決理由の中で「 被害者による犯行の目撃はなく、被害者の供述は感覚(触覚)のみに依拠している 」とした上で、「 会社員の横に立っていた中年男性の特定などの捜査が遂げられていない。(その)中年男性による犯行の疑いを払拭(ふっしょく)できない 」として、道警の不十分な捜査を指摘しました。

 この会社員の男性は、昨年9月27日の朝、南北線・大通駅〜札幌駅間の約2分間に、女性の下半身を着衣の上から触ったなどとして逮捕・起訴されていました。捜査段階から一貫して否認を続け、検察側の「 被害者が手をつかみ、駅員に突き出した。人違いではない 」とする主張に対しても、「 横揺れで左手が軽く女性の下半身に触れたが、痴漢目的ではない。第三者の可能性がある 」と反論していた。

― 同地検は、控訴審で有罪を立証するには証拠が不十分との判断から、控訴を断念したものとみられますが、そのような事は起訴以前から判っていた筈で、何故に無理をして起訴に踏み切ったのか、理解に苦しむところです。


※ また、痴漢冤罪事件で無罪判決 (2003.5.28)

 2002年2月に、東急田園都市線の車内で女性に痴漢行為をしたと強制わいせつ罪に問われていた福岡県の会社員の男性(35)に対して、東京地裁は28日、無罪判決を言い渡しました。以下、5月28日付の朝日新聞(asahi.com)の記事から ・・・。

 この男性は、出張で上京中の昨年2月13日の夜、同線の渋谷〜桜新町間で、26才の女性のスカートをまくり上げて下着に手を差し入れた、などとして逮捕・起訴され、検察側に懲役2年を求刑されていました。

 同地裁の合田悦三裁判官は、判決理由の中で「 女性が痴漢被害に遭ったことは認めたが、『 会社員は最初から犯行を認めていた 』とする警察官の証言は信用できない 」とした上で、「 後ろを振り向いて何を目撃したかについて、女性の証言が捜査段階と公判段階で変遷していることなどから『 会社員を有罪とするには合理的な疑いが残る 』」として、ここでも警察の捜査に疑問を呈した結果となりました。


※ 53年前の絞首刑判決に「誤審」の判断 (2003.6.11)

 6月11日付CNN.co.jp のウェブサイトに、次のようなショッキングな記事が掲載されました。

「 ロンドン(ロイター) 53年前に殺人罪で絞首刑の判決を受け、処刑されていた英国人男性(当時27)の事件の再審理がこのほどあり、判決は『 妥当ではなかった。』とする判断が示された。男性の遺族は、事件はえん罪と訴え、判決の見直しを求めていた。

 (この)男性は1950年、イングランド北部のリバプール市の映画館に強盗に入り、経営者を殺害したとして死刑判決を受け、同年に刑が実施されていた。

 しかし、男性の遺族は、別の男が犯行を自供したとする検察側証人の重要発言が男性の弁護士に開示されていなかったなどと主張し、再審を求めていた。

 英国では、男性が処刑された15年後の1965年に、死刑制度が廃止された。」

― 余りの痛ましい記事に、ショックで言葉もありません。

 この世に<えん罪事件>が存在するからには、当然このような悲劇も過去に数多くあったことでしょう! 当局は、過去の失態を隠ぺいするのが通例なので、この事件のように<えん罪>の事実が明らかになるのは、むしろ稀なケースと言えます。

 <死刑制度>の存続問題自体にも、多くの議論のあるところです。

 そして、もうひとつ、この事件で見逃してならないのは、<判決>を左右するような重要な<証言>があったにも拘(かか)わらず、それが弁護側に全く開示されていなかったという事実。

 <えん罪事件>の陰に<未開示証拠>あり! これが、私たちが検察側に<全証拠>の開示を強く求める所以(ゆえん)です。


※ 元店長に逆転無罪判決 (2003.7.24)

 2001年に、山口県宇部市内の焼き肉店の売上金を着服したとして業務上横領の罪に問われ、昨年9月に山口地裁宇部支部で懲役1年6月の実刑判決を受けた元店長斎藤猛被告(41)の控訴審判決が24日に広島高裁であり、一審判決を破棄して、無罪が言い渡されました。以下、7月25日付の中国新聞(chugoku-np.co.jp)の記事から ・・・。

 同高裁の久保真人裁判長は、「 売上金は別の店員が信用金庫の窓口で入金する時があった経緯を認めて『 着服金の使途などの証拠は全くなく、借金も動機も見当たらない 』と指摘した上で、『 別の犯人がいる疑いが払拭(ふっしょく)できず、一審判決には事実誤認がある 』と結論づけています。

 斎藤さんは、焼き肉店の店長だった2001年11月〜12月に、店の売上金計61万円を信用金庫の夜間金庫に投入しないで着服したとして、2002年2月、山口県警宇部署に逮捕され、起訴されました。

 斎藤さんは、捜査段階、公判とも一貫して犯行を否認していましたが、同地裁は、「 夜間金庫に投入する売上金袋を単独で持っていた点などを理由に『 犯行を容易に実行できる 』と判断し、有罪判決を言い渡していました。

 ところが、「 控訴審で、(斎藤さんの)逮捕後にも(店の)売上金が紛失していた事実などが判明し、広島高検は今年5月、異例の拘置取り消しを請求し、斎藤さんは釈放され 」ていたという経緯があります。

 判決後に会見した斎藤さんは、晴れやかな表情を見せながらも、一審段階で犯人と決めつけた山口県警、検察、そして裁判所への不信感は拭(ぬぐ)えず、「 何もやっていないのに状況証拠だけで犯人扱いされ、信じられない出来事だった。原因をはっきりさせ、2度と起こらないようにしてほしい 」と述べています。

 斎藤さんによると「 警察官が、突然自宅にやって来て宇部署に連行され、裸にされて身体検査を受けた。『 何も知らない 』と一貫して(無実を)訴え続けたが、その訴えは届かず(起訴されて)実刑判決を受けた 」のだそうで、「 いつか白状すると言わんばかりの捜査姿勢は腹立たしい 」と憤(いきどお)りも隠せずに、「 常識的な捜査さえすれば、こんなことにはならなかったはず 」と当時の県警・検察の杜撰(ずさん)な捜査を批判しています。

― 中国新聞社の荒木紀貴記者は、最後にこの事件を振り返って次のような率直な意見を述べています。

「 広島高裁が無罪判決を言い渡した宇部市の業務上横領事件は、見込み捜査が生んだ典型的なえん罪と言える。県警と検察の捜査のずさんさはもちろん、一審で実刑を言い渡した裁判所のチェックの甘さも、徹底検証が求められる。

 自供や物証はなかった。焼き肉店では400万円の売上金がなくなっていたのに、起訴されたのは61万円分だけ。動機や使い道は特定できていなかった。店長の欠勤日にも売上金がなくなっており、それを示す書類の存在は見逃された。弁護側は『 証拠を普通に見れば、おかしいと分かる(はずだ) 』と語気を強める。

 ずさんな捜査を見抜けなかったばかりでなく、否認する被告を『 反省がない 』と断罪し、実刑判決を言い渡した山口地裁宇部支部の姿勢は『 疑わしきは被告人の利益に 』という刑事裁判の原則を放棄したとしか言いようがない。

 一審破棄について山口地裁は『 個々の裁判にコメントする立場にない 』としか語らない。再発防止には真しな反省がかかせない。開かれた司法を目指すなら、ミスの原因を分析し、説明責任を果たす必要があるのではないだろうか。」

 <布川事件>発生からかれこれ35年にもなるというのに、残念ながら<杜撰(ずさん)な捜査>と<無責任な裁判>は、現在でも相変わらず続いているようです!


※ 女性に対して虚偽告訴で逆告訴 (2003.8.4) 

 2000年9月に「 わいせつ行為をされた 」と嘘の告訴をしたとして虚偽告訴罪に問われた埼玉県会津若松市の女性(51)に対する初公判が8月4日、福島地裁であり、被告は起訴事実を認めました。以下、8月5日付の朝日新聞(asahi.com)の記事から ・・・。

「 起訴状などによると、被告の女性は00年8月30日、県警会津若松署に夫の取引先の男性に対して虚偽の告訴をし、同署は9月4日に男性を強制わいせつの疑いで逮捕。(この)男性は容疑を否認したが、19日間勾留(こうりゅう)された。(その後)福島地検会津若松支部は嫌疑不十分として釈放した。」

 しかし、この男性はこの逮捕がきっかけで社会的な信用を失い、それまで経営していた建材会社の廃業を余儀なくされました。そこで、同年10月、この被害者の男性は虚偽告訴をした女性を相手取り300万円の損害賠償を求める訴えを福島地裁会津若松支部に起こしました。これを受けて、同支部は2001年11月に「 わいせつ行為はなかった 」として、この女性に150万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。

 この男性は、さらに2002年夏にこの女性を虚偽告訴の疑いで逆告訴し、同地検は先月1日にこの女性を在宅のまま起訴したというのが、今回の初公判に至った経緯です。

「 この日の公判で検察側は『 女性は夫にかまってもらえず、(夫の)気を引くために騒ぎを起こした 』と嘘の告訴をした理由を述べ 」た上で、懲役2年6ヵ月を求刑しました。

 この男性は「 逮捕されて人生が狂ってしまった。(この)女性がわいせつ行為をされたと主張する時間に私は別の取引先にいた。きちんと裏付け(捜査)をすれば女性のうそを見破れたはずだ 」と福島県警の杜撰(ずさん)な捜査を批判しています。

 これに対して同県警は、「 結果として間違っていた。申し訳ない 」とコメントしています。

― この女性の行為自体は、全く<あさはか>としか言いようがありませんが、またしても、警察の<杜撰(ずさん)な捜査>が問題になっています。

 これまでの事件をいろいろと検討してみると、次第に<えん罪事件>発生のメカニズムが明らかになって来ました。以下、それを箇条書きにしてみます。

1. 見込み捜査、あるいは被害者からの告訴を受けて、間違った人を逮捕。

2. 時間と手間のかかる
<裏付け捜査>はあまりしないで、もっぱら被疑者の取調べに終始。

3. 場合によっては、被疑者から
<嘘の自白>を引き出す。

4. 被疑者の
<自白><状況証拠>だけで、もしくは<容疑否認>のまま強引に起訴。

5. 捜査当局に不利な証言や証拠は全て隠ぺいし、
<非開示>とする。

6. 必要とあれば、都合の良い
<目撃証人>を立てる。

といったところでしょうか・・・?

 これに、<証拠書類>をほとんど検討しないで、検察側の主張を全面的に受け入れる<裁判官>が加われば、完璧な<えん罪事件>が出来上がります。

 今後、このような<えん罪事件>の発生を予防する為には、<逮捕>の段階、<取調べ>の段階、そして<起訴>の段階と、3つの段階でそれぞれチェックするような機構を構築する必要がありますが、まずは捜査官の「 あいつが怪しいから、取り敢えず(別件で)逮捕して取調べてみよう 」という発想から変えていく必要があるのではないでしょうか・・・?

― なお、この女性については、8月25日に福島地裁(大沢広裁判官)で判決公判が開かれ、懲役1年(求刑同2年6ヵ月)の実刑が言い渡されました。

 一罰百戒ということなのでしょうか・・・?


※ 放火罪容疑の被告に無罪判決 (2003.9.9)

 2002年 7月に福岡県八女市の祠(ほこら)に火をつけたなどとして、非現住建造物等放火と住居侵入の罪に問われた同市の男性(26)に対する判決公判が9日に福岡地裁久留米支部で開かれ、「 自白の信用性に乏しく、捜査官に誘導された疑いを払拭(ふっしょく)できない 」として、被告にいずれも無罪が言い渡されました。以下、9月9日付の朝日新聞(asahi.com)の記事から ・・・。

 同支部の高原正良裁判長は、判決理由の中で「 捜査段階の供述が大きく変遷しており、被告の知的能力が低いことを考えると、誘導やすり込みがあったことも否定できない。物的証拠が乏しく、全体として信用性が低い 」と述べ、自白の内容に一歩踏み込んだ判断をしています。

 起訴状によると、この男性は2002年7月22日午後6時頃、八女市内の祠(ほこら)の中に新聞紙を差し込んで火を付けて一部を焼失させ、さらに同年8月14日午前1時頃、同市内の住居に不法に侵入したものとされていましたが、この男性は、公判で放火については無罪を主張していました。

 また、住居侵入については、この男性は起訴事実を認めていましたが、判決は「 侵入した目的は、嫌いな父親から身を隠すためで、社会的に許容されないとは認められない 」としています。

― 最近は、この判決のように自白内容を詳細に検討して、それが被告の<自由意思>に基づくものなのか否か、という実質的な判断をするような判決が時折見られるようになってきました。とても喜ばしいことです!

 自白が<取調室>という密室の中で行われる為、捜査官の功名心もあってか、往々にして行き過ぎた取調べが行われているようです。この事件のように<自白の誘導>が行われたような場合や、時には<脅迫>とも取れるような取調べも目に付きます。また、取調べの時にいきなり捜査官に怒鳴りつけられて、事情を説明しようにも一方的で話を聞いて貰えなかった、という話さえ耳にします。

 我が国では、被疑者の<人権>があまりにも軽視され過ぎているのではないでしょうか・・・? それが、<えん罪事件>発生の一因になっているように思われます。


※ 検察、執行猶予の裏取引 (2003.11.28)

 朝日新聞(asahi.com)の11月28日付の紙面に、次のような短い記事が掲載されました。これは、<えん罪事件>ではありませんが、共通する問題を含んでいますので敢(あ)えてこのコーナーで取りあげることにしました。

「 徳島県元知事ら3人の自治体首長への贈賄罪などに問われたコンサルタント会社の業際都市開発研究所(業際研)社長で元衆議院議員秘書尾崎光郎被告(58)の控訴審公判が28日、東京高裁であった。尾崎社長は、「 取調中に検察官から『 認めれば執行猶予がつく 』と言われて、罪を認める調書にサインした 」と述べ、検察側と「 裏取引 」があったと訴えた。

 尾崎社長は、3月に東京地裁が言い渡した実刑判決を不服として控訴。一審では罪をすべて認めていたが、控訴審になって一部無罪を主張している。

 この日の供述によると、捜査段階で検察官から過去30年間の贈賄事件の量刑一覧表を見せられ、『 実刑になった例はない 』と、調書にサインを迫られたという。しかし、一審で懲役2年6カ月の実刑判決を受け、『 真実を言おうと思った 』と述べた。」

― この事件でも、検察側との<裏取引>が問題になっています。このような問題が頻繁に表面化していることを鑑(かんが)みますと、密室内での<裏取引>は、いわば<常態化>してしまっているということなのでしょう!

 何度も繰り返すようですが、容疑者が<嘘の自白>をしてしまう最大の原因は、ここにあると言えます。<密室内>で混乱状態に陥っている容疑者は、自分の身を守るために藁(わら)にも縋(すが)る思いで検察側からの取引要求に応じてしまうのです。

 しかし、アメリカで一般に行われている<司法取引>とは全く異なり、わが国の<検察官>には裁判所の判決に対して何の権限も持っていません。検察側の<甘言>自体が、そもそも<嘘>なのです!

 このような事態を、いつまでも放置しておく訳にはいきません!<えん罪事件>の再発を防止する為には、被疑者の人権を保護する為の何らかの ― 立法化を含めた ― 対策が必要です。


※ 公然わいせつで起訴の男性に無罪判決 (2003.12.9)

 2002年11月に沖縄県糸満市で中学生に下半身を見せたとして公然わいせつの罪に問われた男性(28)に対する一審判決が9日に那覇地裁であり、この男性に無罪(求刑懲役4カ月)が言い渡されました。以下、12月9日付の朝日新聞(asahi.com)の記事から ・・・。

 同地裁の横田信之裁判官は、「 犯人の車と男性の車のナンバーが一致するという生徒らの目撃証言について、『 合理的な疑いが残る 』」として、検察側の主張を斥けています。この男性は、「 約2カ月半拘置されたが、一貫して無罪を主張 」していました。

 この事件は、「 昨年11月21日午後6時40分ごろ、帰宅途中の女子中学生の横に車が止まり、運転席の男が下半身を露出し、走り去った 」直後に「 車が再び現れ、逆方向に向かった 」というもので、「 生徒らは、車はいずれも同じステーションワゴンだったと言い、(沖縄)県警は、2度目に見た車のナンバーから男性を割り出して任意で聴取。(この)男性は、書店に行く途中だったと容疑を否認したが、犯人がかぶっていたのと同様のニット帽を持っていたことや生徒らの目撃証言などから(この)男性を逮捕 」しました。

 同裁判官は、判決理由の中で「 ナンバーが目撃されたのは犯行時ではなく、逆方向に向かったときで、当時は日没から1時間以上すぎて暗く『 車体がはっきり見えるか疑問 』と指摘 」した上で、「 犯人の車がUターンしたのを誰も見ておらず、別の車の可能性もある 」としています。

 さらに、「 県警は(この)男性とともに無関係の男性2人を並べて生徒らに『 面通し 』させたが、生徒らが犯人の年齢を『 20代後半から30代前半 』としているのに、後の2人は46歳と35歳と年長だった点を指摘。年齢から被告を選んだ可能性も否定できない 」としています。

― この事件でも、被害者の曖昧(あいまい)な目撃証言に基づいて容疑者を逮捕した上に、犯罪の内容に比して異様に長期間とも言える<勾留>が行われています。早急に、今後の<犯罪捜査>のあり方を見直す必要があります!

 少なくとも、被疑者の人権を守るためには、逮捕直後の<取調べ段階>から弁護士の立会を認めるような立法措置を講ずるべきなではないでしょうか!

 なお、この判決を含めて最近の裁判で非常に評価できるのは、裁判所自身が<目撃証言>の客観的合理性について踏み込んだ判断を下すようになって来ていることです。まるで不合理な<目撃証言>に基づいて有罪判決を下した<布川事件>と較べると、隔世の感があります!

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