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第1話:1年目 サンデーカップ1 予選。

 突然だが、俺の名前は高見公人。今年から初めてこのGTシリーズというレースに参加している。
 レース自体は前から知り合いのクラブのレースに参加させて貰っているからまったくの初心者という訳でもない。
 残念ながらまだプライベータの身だし、ライセンス的にも出られるレースはサンデーカップだけだけど、一日でも早くチームをつくって上のレースに出場したいと思っている。ちなみにこのGTシリーズの最高峰はGTWと呼ばれるレースだ。
 出場するクルマは化け物みたいなレースカーばかりなので、今の俺みたいなクルマではとうてい太刀打ちできない。
 サンデーカップは全3戦。月に1度レースが行われていて、年に4回このサンデーカップが行われる。  主催者が設定する「B級ライセンス」を取得すれば誰でも参加できるのがこのレースのいいところだが、車両に制限がないのでまるっきりレーシングカーみたいなのもたまに来るらしい。俺は初めての参加だからよく知らんが、たまに見に来る知り合いはそう話していた。
 参加している本人はシャレのつもりのようだけど、なんだかなぁ。
 「さて、予選の時間だな。やっぱ出るからには上のグリッドを狙いたいよなぁ」
 ヘルメットをかぶりながら見に来ていた友人にそう言うと
 「まー怪我しねー程度にがんばれや。って言いたいところだけど、そのボロいクルマじゃさすがに厳しいんじゃないのか? 」
 こいつ、早乙女好男はいつもこんな口調だから別に腹は立たない。

 俺の車両は2年落ちの3ドアシビックVTECだ。さすがに前からレースにも使っているだけあってボディはあちこちヤレて来てはいる。でも足回りは煮つめに煮つめているので戦闘力が無い訳じゃぁない。
 エンジンだって納得がいくまで自分でセッティングを出しているんだし、結構いいところはいくんじゃないかな。
 当然レーシングスペックにしてあるので公道は走れない。

 「やってみなけりゃ解らないだろ」
 シートに座りエンジンをかける。キーをひねるとすぐにエンジンが回り始めた。
 いつもは2、3回回さないとかからないので幸先がいい。
 「じゃーがんばれよ。とりあえずスタンドで見てるから!」
 そう言って好男はピットから離れた。
 4点式のシートベルトを締めてピットでオフィシャルの指事を待つ。
 手持ちぶさたなのでトントンと指でハンドルの上を叩いていると、

 「公人クン、がんばってね」
 と聞きなれた声がヘルメット越しに聞こえた。
 「え?」
 驚いて振り替える。
 「し、詩織・・?」
 間違いない。幼馴染みで隣の家の詩織だ。
 赤い髪が風になびいている。
 目が合うと詩織はにこりと笑って手を振った。
 「久しぶりだなぁ、今日はここでなにやってるんだ?」
 驚いたように尋ねると、ふふふと笑って
 「うん、今日はね、ちょっとお手伝いなの」
 「手伝い?」
 そう言うと再び話しを続けた。
 「私の友達がこのレースシリーズのオフィシャルやってて、今日はどうしても人が足りないっていうから。それで手伝いに来たの」
 「手伝いったって、詩織ってレースとか興味あったっけ?」
 「うーん、ホント言うとあんまり。テレビでも見たことないし。でもメグがどうしてもって…あ、メグって私のそのオフィシャルやってるっていう友達」
 「ふーん、そうなんだ」
 「うん。あ、そろそろ予選が始まるって。じゃあまたあとで。気をつけてね!」
 詩織の声に軽く右手を上げてクルマを前に進める。
 マフラーに太鼓なんてついてないから当然出てくる音は爆音だ。
 ミラー越しに見るとその音に耳を塞いでいる詩織が見えた。さすがにクラシックが好きな詩織にはこの音は騒音にしか聞こえないらしい。

 ピット出口でオフィシャルが間隔をあけてクルマをコース上に送り出している。
 F1なんかでは60分と言う時間の中で好きなときにタイムアタックが出来るがそこまで形式ばっていないし、予選での事故を防ぐために予選中はコースには1台しか入れていない。と言っても予選は1周しかないんだけど。

 俺の前のクルマがコースインしていく。停止線までクルマを進めるとオフィシャルが線の前で旗を水平に上げて制止の合図をした。
 やっぱりここでも少し待つ。バックミラー越しに詩織が見えた。栗色の髪の女の子となにか会話している。
 あの子が友達のメグって子なのかなー、なんて考えてると、ピット出口の向こうを予選の終わったクルマがクールダウンしながら走り抜けて行った。 それを合図に目の前の旗が上がったので、軽くアクセルを煽ってコースにクルマを滑らせる。
 やっぱり緊張はする。でも高まるエンジンの咆哮とともに次第に緊張しているのも忘れて行った。
 1周目は様子見。予選用のグリッドにつくために1周回るだけなので速く走ってもタイムはカウントされないし、オフィシャルからもグリッドに着くまでは全開は禁止されている。予選本番は2周目だ。それでも最終コーナーのクリップを抜けると共に1度アクセルを全開にしてみたら、やっぱりオフィシャルににらまれた。

 ホームストレートに戻り、予選グリッドぎりぎりにクルマを停める。
 信号の赤ランプが灯ると共にアクセルを軽く開ける。
 フロントウィンドウの端に手を振る好男の顔が見えたがとりあえず無視する。
 ったく今から予選で集中してるってのに金網を乗り越えて手は振るわ大声で名前は呼ぶわでうっとおしい。

 シグナルグリーン。軽くホイルスピンをさせながらアクセル全開でスタートだ。
 1コーナーまでに2速、3速と入れて1コーナー直前でフルブレーキ+シフトダウン2速。
 タックインでリアを滑らせつつフロントにトラクションをかけて2コーナーへ…。

 予選グリッドへの周回と予選周回、クールダウンの周回のあわせて3周を回ってピットに戻りクルマを停めた。
 3周とは言えエンジン全開だったし水温計も高めなのでボンネットをあけてしばらくエンジンを回しておく。
 まぁまぁミスもなくよく走れたほうだと自分では思う。

 「おーい、ごくろーさん!」
 ピット奥から好男が走ってきた。
 「結構いいタイムだったじゃねーか。43秒の前半だったぞ」
 「そうか、他の連中はどうだった?」
 ヘルメットを脱ぎながら答える。
 「よくは見なかったけど、少なくともお前よりは遅いみたいだったな」
 「じゃーあとはおれの後の出走のタイム待ちだな。さて、休憩休憩」

 ピット奥にいくとまた詩織とはちあわせた。
 「あ、公人クン。いま予選の途中結果教えにいこうと思ってたところだったの。ちょうどよかったわ」
 「あれ、まだ仕事中じゃないのか?」
 「さっき交代したところだから大丈夫。えーっとねぇ公人クンは今2番手だって」
 2番手か。予想外の良いタイムだったらしい。まんざらでもない。
 「へぇ、で1番手は誰?」
 「えーっとねぇ、今のところは…古式ゆかり・・さんだって。女の子見たいね」
 「ん? 古式? …遠い記憶のかなたに聞いたような…見たような…」
 「えー、古式ゆかり、古式不動産の一人娘。趣味は編み物。レース活動は半年前から’チームゆかり’と言う名前で開始。豊富な資金を使ってあっという間に上位に上がってきた。で最近実力を認められてきたGTWの有力候補。ってとこだな」
 いきなり好男が詳しく解説をしだした。
 「なんだお前、ずいぶん詳しいな」
 「そりゃ女の子の事に関してはおれにまかせてくれよ。伊達にピットをうろうろしてるわけじゃないぜ」
 読んでいた手帳を閉じて、自信満々で親指を立てる。
 「えーっと、お友達かしら?」
 詩織がおれに向かってちょっと不安そうな目を向けると、
 「はーいはいはい!僕、早乙女好男といいます!こいつ公人とは3年前からの腐れ縁でーす!どーぞヨロシクゥ!」
 「あ、わ、私は藤崎詩織です。こ、こちらこそよろしくお願いします」
 あきらかに焦っている。
 「じゃ、じゃあ公人クン、私他にも仕事があるから。じゃあね」
 そう言うと詩織は慌てたように事務室のほうへ戻って言った。
 「なんだよ公人、お前あの子とどういう関係なんだ?」
 「関係って、幼馴染みだよ。ここんとこしばらく会ってなかったけどな」
 「ふーん、とにかく後で色々聞かせてくれよ」
 「なにを?」
 「そらおまえ、趣味とか特技とか電話番号とか3サイズとか下着の色とか」
 趣味特技電話番号までは知ってても3サイズや下着の色なんてわかるか。
 つきあってた訳じゃないんだし。まー憧れてはいたけど。いまもちょっと。いやだいぶか。
 「知ってどうするんだ?」
 「おれの趣味だ」
 きっぱりとそう断言する好男にもうなにも言えなくなったので、ため息を吐きつつ売店前の休憩所に向かった。

 売店前の休憩所で缶コーヒーを飲みながら好男とダベっていると、肩くらい長さの赤い髪の女の子が近づいてきた。
 「えーっと、ねえねえ高見公人ってあんた?」
 いきなり呼び捨てで妙になれなれしく話しかけてくる。
 「高見公人は俺だけど、なんか用?」
 「へー、そっかぁ。あんたが高見公人ねぇ」
 値踏みするように人の顔をじろじろと見ている。
 「な、なんだよ、何か用か?」
 「いやー用ってほどのもんでもないんだけどさ。うちのチームの隣のグリッドのドライバーがちょーっと気になったもんだからね」
 「ってことは、あんたチームゆかりのドライバー?」
 「あたし? あたしは違うよ。チームゆかりのタイムキーパーの朝日奈夕子っていうの。あんた初参加でしかもプライベーターで2番グリッドなんて凄いジャン。今日は正々堂々と戦いましょ。それじゃ!」
 そう言うとあわただしくピットのほうに立ち去った。
 「なんか騒がしい子だったな」
 好男が疲れたようにつぶやいた。
 「ああ」
 レース前になんだかものすごく疲れた気分だった。


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