みつめてナイトAC 微妙に0風味  ep01

 コクピットにアラームが鳴り響いていた。  ガクガクと振動しながら高度を下げ続ける機内で、俺は薄れそうになる意識を必死 に繋ぎながら、操縦桿を握っていた。 「サイファ、もうどうしようもないわ、高度もだいぶ下がってる。機を捨てなさい!」  無線から相棒の声が聞こえる。 「…………」 「サイファ! 返事をしなさい!」  ピクシーだ。なんだか、怒鳴っている。 「…、ピクシィ、了解、した。脱出する…。敵機は、どうした」 「敵機は空域を離脱したわ。…ケガ、酷いのか?」  途切れ途切れな声で察したんだろうか、ピクシィが声のトーンを落して聞いて来た。  ミサイルの破片がコクピットに飛びこんで、風防やベアリングが俺の身体にも突き 刺さった。機も俺も、既に限界が近づいていた。 「ピク……、ライズ、あとは、頼む……」  射出レバーを握り、強烈なGと共に身体が宙に放り出された。  辛うじて意識を失わなかったが、思考はほとんど途切れていた。  煙を上げながら落下していく機は、人家の無い峡谷へ向かっていた。  俺の真下は平原が広がっている。これなら救助に困るような事もないだろう。 「…サイファ、サイファ!」  轟音が俺の頭上を旋回しているのが聞こえた。  パラシュートが自動で広がり、射出シートから無理矢理引き剥がされたあたりで、 暗い世界に落ちていった。 「…………」  目を覚ますと、白い天井が見えた。  視界の隅では白いカーテンが穏やかに揺れている。白い壁と白い天井に、薄黄色 の光が差しこんでいた。 「…、あら、ソウマさん、お目覚めですか?」  身体がしびれたような気だるさに包まれていて、頭もハッキリせず、身じろぎを するにも身体がうまく動かない。  右手に違和感を感じて見ると、点滴の管が繋がれているのが見えた。  視界の外にあった人の気配が、コツコツと軽い足音とともに近づいてきた。  ウェーブのかかった髪をかき上げながら、柔らかな笑顔が、俺の顔を真正面から覗 きこんでいる。 「これ、何本か判りますか?」  彼女が指を2本出している。 「……2本、だな」  声は出せたものの、自分でも驚くほどガラガラだった。 「身体に痛いところとかありませんか?」 「ここは……」  少しづつだが、身体が動くようになってきた。意識が覚醒してくると同時に身体も覚 醒し始めているようだった。 「あまり動かないで下さい。ここはドルファン記念病院です」 「病院…」 「ええ。軍のヘリコプターで搬送されて、緊急手術でした。手術は成功しましたけど、 大量失血の影響でもう4日も意識が無かったんですよ」  彼女はそう言いながら、新しい点滴のパックをスタンドに吊り下げて、点滴の管を付 け替えた。 「1時間ほどしたら検査しに来ますから、それまでゆっくりと寝ていて下さい」  小さく会釈して、彼女は病室から出て行った。  ボーっとする頭をそのままに、再びベッドに身体を預けた。  眠気は無いが、とにかく身体がだるい。たぶん麻酔かなにかの影響だろう。  頭の意識もいまいちハッキリしない。これは寝過ぎだろう。  部屋の中を見まわしてみると、どうも個室のようだった。あまり広くは無いが狭苦し い印象は無い。  うつらうつらとして時間の感覚もあいまいだったが、さっきの看護婦さんが部屋を出 て、30分くらいは経っただろうか。  ドアが小さくノックされた音ではっきり目が覚めた。返事をしようか迷っていると、開 けたドアの隙間から中を伺うようにして誰かが入ってきた。  中に入ったあと、今度は外の様子を伺うようにしながら、音を立てぬよう静かにドア を閉めた。  ふう、と小さく安堵のため息をついている。 「……なにやってるんだ、ライズ?」  声をかけたら、部屋の隅まで飛び退った。思いっきりビックリしたらしい。こんなライ ズを見るのは初めてだ。 「サ、サササ、サイファ、起きて、たんだ」  引きつった笑顔でこちらを見ている。こんな取り乱すのも珍しい。 「こそこそ入らないで、ちゃんと入って来いよ」  すはぁ、と大きく深呼吸をし、気を取りなおしたように、いつもの愛想の無い表情に 戻った。  いまさら戻ってもって気もするけどな。 「…面会謝絶の札が下がってたから」  それはそれで、ライズらしい。 「わざわざ見舞いに来てくれたのか?」 「見舞いは隊長命令だけど。でも、あなたのケガは私のせいだもの」  俺が入院するはめになった理由。  それは4日前の領空侵犯に対するスクランブルで交戦した時、敵機のミサイルを被 弾したのが原因だった。  僚機であるライズをかばって俺がミサイルを受けた格好になったのだが、機体だけ でなく俺自身も少なからずダメージを受けてしまい、墜落する寸前でなんとかベイル アウトに成功した。  領空侵犯して来た敵機は2機のSu‐27だった。こちらはF-15の4機編隊で上がって いた。敵機のうち1機は俺が撃墜できたが、こちらは俺を含めて3機を落とされた。敵 の残る1機は俺を撃墜したあと国境方面に戻って行ったそうだ。  その後パラシュートが開いたところ辺りまでは記憶があるのだが、そこから先は さっき目が覚めるまで一切覚えていない。 「サイファ、ケガの具合は?」 「まだ身体がしびれた感じになってて、いまいちよく判らないけど、とりあえず生きて る」 「そう…」  しばし無言。それでも今日のライズはよく喋る方だ。 「看護婦の方はいないの?」 「1時間くらいしたら検査しに来るって言ってた」 「…そう」  ライズは後ろ手に持っている紙袋をテーブルに置いた。音からしてそこそこ重量の あるものだ。  そして肩から下げていたポーチから無造作に、軍支給のアーミナイフを取り出し、折 り畳んだ刃を引き出して俺を睨みつけた。  ナイフを持つ手に力が入っているのは、俺の目でも明らかだった。 「…り…」 「り?」 「…リンゴ、剥いてあげるわ」  赤い顔をしてそっぽを向いてしまった。  普段からしている手袋を脱ぎ、紙袋からリンゴを取り出した。  何故手袋をしているのか、詳しい理由は教えてくれない。日常を生きる自分にも、 戦闘機乗りである事を忘れさせないため、とか言っていたが、真意では無いように思 う。 「…皿は」 「俺もさっき目が覚めたばかりだから、判らない」  そう、と別に気にした風でもなく言うと、そばにあった椅子に座り、しゅるしゅると慣 れた手さばきで器用にリンゴを丸ごと皮を剥いて、やはり軍で支給されたサバイバル 用のフォークをポーチから取り出し、それにリンゴを丸ごと突き刺して俺に寄越した。 「はい」 「ワイルドだな」 「いやなら食べないで」  小腹も減っていたので、ありがたく頂戴することにした。 「このリンゴ、わざわざ買ってきたのか?」 「隊のみんなからよ」  たぶん近所の果樹園のリンゴだろう。ありきたりな果物詰め合わせじゃないところ が、うちの隊らしい。 「そか。リンゴの皮むき、うまいな」  誉めたつもりだったが返事が無い、その代わり、 「…なぜ助けたの?」  質問が返って来た。 「なぜもなにも、僚機がピンチだったから助けた」 「答えになってない。サイファがピンチの時、私が変わりに被弾してあげると思ってい るの?」 「思ってないよ」 「ふん、腕のわりに甘いヤツね。……ま、まぁ、あなたのその甘さは、嫌い、ではない けど…」  最後の方、小声で聞こえなかったから聞き直そうと思ったら、いきなり別の話題を口 にしだした。 「4日前に領空侵犯して来た敵、素性がわかった」 「素性? プロキア空軍じゃないのか?」  プロキアは現在ドルファン王国と交戦中の国だ。  国土侵略を狙っているらしく、今はまだ国境付近で戦っているだけだが、今後どん な手で攻撃してくるか予断を許さない。 「プロキア軍には違いないけど、私たちと同じ傭兵部隊だった」 「それは想像の範疇だ。なにか問題でもあるか?」 「ヴァルファバラハリアンよ」 「ヴァル……」  声が詰まった。この名前を聞いて一瞬でもたじろがない傭兵、いや軍人はいない。 「事実か?」  こくり、と頷く。撃墜した機からベイルアウトしたパイロットを捕虜として捕らえ、取調 べで判明したとの事だった。  ヴァルファバラハリアンは巨大な傭兵組織として知られている。  主に航空部隊で組織されているが、一個大隊に匹敵する規模を誇る。その為輸送 から整備に至るまで全て自分の組織のみでまかなえるのだ。  技量や練度も高く、最近まで別の国の傭兵だったとは聞いていたが、よりによって プロキアと契約していたのは脅威としか言いようが無い。  恐らく先の領空侵犯も様子見程度だったんだろう。 「しかも、あなたを堕としたのは、八騎将の一人らしいわ」  八騎将とは、ヴァルファバラハリアンを率いている最強とも言うべき八人の傭兵士 官を指す。  実際に戦場に出てくるのはその中の四人と聞いているが、なるほど、ウワサ通り手 強いヤツラだ。 「軍の動きは?」 「まだ。この情報も一部にしか知られていない」  超が付くほど強力な傭兵組織だ。今の段階で軍内部に広まったら浮き足立ちかね ない。  そしてヴァルファバラハリアンとプロキアが契約したと言う事は、本気で攻めにか かってくることを意味している。 「…忙しくなりそうだな」 「ええ。だから早く治して」 「努力はするよ」 「…サイファ」 「ん?」 「…あなたがいないと、空に上がっても面白くないのよ」  スックと立ち上がると、ポーチを持ってドアへ歩き出した。 「帰るのか?」 「また見舞いに来る。何か欲しいものは無い?」 「特には無いけど、ライズに任せるよ」 「そう。じゃあ大事にね」  ライズがドアを開けようとしたら、向こうからドアが開かれた。  ツカツカと入ってきたのは、さっきの看護婦さんだ。ただ表情はものすごく怒ってい る。 「どなたですか?」 「彼の同僚の者よ」  向こうの怒気を気にもしない風にライズが返した。  上官に怒鳴られてもケロリとした顔で聞いているライズだ。看護婦さんに怒られたく らいで顔色を変えるとも思えない。 「面会謝絶の札が見えなかったんですか」 「無視した」  何かが切れた音が聞こえた。 「出て行きなさい!!」  大音響。天井までビリビリと震えた様だった。  実際、点滴パックの水面は揺れている。 「サイファを頼む」  やっぱり全く動じていないライズが、そう看護婦さんに言って、俺に一瞥をくれると そのまま部屋から出て行った。  看護婦さんは看護婦さんで、すっ飛んできた婦長さんと思われる人に連れて行か れてしまった。  再び病室に静寂が訪れ、しばらくしてさっきの看護婦さんがうなだれながら部屋に 入ってきた。 「先ほどは、大声を上げてしまい申し訳ありませんでした」  深々と頭を下げた。 「悪いのはあいつだから、気にしないで下さい」 「はい、そう言っていただけると助かります」  ションボリしながら廊下から台車を引っ張ってきて、ベッドの脇に停めた。  形はレストランなんかであるような、2段になってるカート状の台車だが、色はステ ンレスそのものの素っ気無いものだ。  台車の上のカルテを手にとって、 「えーと、コタロウ・ソウマ、さんで間違い無いですね?」 「あ、はい」  彼女は、一応規則なんで、と一言加えてカルテを置いて、血圧計と聴診器を取り出 した。  血圧計を腕に巻きつけながら、 「そう言えば」  一呼吸置いて 「先ほどの方、ソウマさんのことを『サイファ』と呼んでいましたけど…」  シュコシュコと空気を入れながら言う。 「ああ、あれは飛行中に呼び合うあだ名みたいなモンです。あいつ、地上に降りても 絶対俺のこと名前で呼ばないから、よく誤解されるんですよ」  看護婦さんは指をあごに当て考える素振りをした後、 「じゃあ、先ほどの方もパイロットですか?」 「うん」 「…彼女さんですか?」  遠慮がちに聞いてきたが、その発想は無かったわ。 「違う違う。僚機で相棒だけど、そんなんじゃ無いよ」  なるほど、と納得したように頷き、聴診器を当てて血圧を測りだした。  水銀柱を見ながら空気を入れ足し、目盛りを目で追っている。  水銀が下の方まで降りたところで、血圧計から空気を抜いて聴診器を外した。  測定結果をカルテに記入している。 「血圧はだいぶ回復していますねー。それじゃ傷口の包帯換えますから、上を脱いで ください」  あらためて自分が着ているものを見た。  たぶん、運ばれて来た時に着せられたんだろう、青っぽい病室着のようなものを着 ていた。その下にシャツなどは着ていない。 「えっと、ちょっと恥ずかしいな…」 「見慣れてますから大丈夫です」  笑顔で言った。そりゃ看護婦さんなんだから、当たり前か。  ゴソゴソと服を脱いだが、微妙に看護婦さんの頬が赤いのは、きっと気のせいだろ う。 「ちょっとおズボン下げますね」 「う、うわ、ちょっと…っ」  結構ギリギリまで下げられた。て言うか、俺パンツはいてない…。  包帯は、左腕の肩のあたりと、腹部に巻かれていた。  包帯を外すと、左肩は5針縫ってありまだ縫い糸は外されていない。  腹は中心からやや左に、横に10cmほど縫ってあり、それ以外にも何箇所か数針 縫うようなケガをしていた。道理で腹に力が入らないわけだ。ガーゼに血がついてい るから、まだしっかりとは傷口が塞がってないらしい。 「お腹のほう、まだちゃんと傷塞がってないですね。傷口が開く可能性がありますか ら、あまり動き回ってはダメですよ」  言いながら消毒液を塗り、新しいガーゼと包帯を巻いている。 「そんなに酷い怪我だったのか?」 「私は手術に立ち会ってませんから判りませんけど、急所や内臓は大丈夫だったよう ですが、大量の破片などの異物がお腹の中や肩にあったようです。特にお腹は全部 取り出すのに大きく開腹する事になってしまったんだとか」  なるほど、大人しくしていよう。 「それと、大量出血でかなり危なかったそうです。でも血圧もだいぶ回復してますか ら、一安心ですね」  笑顔で言われると、ホントに大丈夫な気がするから不思議なもんだ。 「それではまた後ほど。目が覚めたようですので、今日からご飯が出ますから」  台車を押して出て行こうとする看護婦さんを呼びとめた。 「あ、看護婦さん、トイレとかはどこにありますか?」 「あ、はい、そうですね。トイレは出て右に行ったところすぐに、洗面所と一緒になった トイレがあります。それから」  またベッドまで戻ってきた。 「私の名前は、テディ・アデレードと言いますので、テディと呼んでいただいて構いま せん」  胸に付けた名札を見せてくれた。  と言うか、思わず「肩凝りませんか?」とセクハラまがいの発言をしそうになるほど 胸が豊かだった。ビックリだ。相棒のライズは、パイロットスーツを着てしまうとどっち が胸だかわからないからなぁ。 「では、また後ほど来ますけど、何かありましたらナースコールして下さい」  ペコリと頭を下げてテディさんは部屋から出て行った。  と同時に、さっきライズが置いていった紙袋から、なにか振動音が聞こえた。  袋を引き寄せて中身を見ると、リンゴのほかにもう一つ紙袋が入っている。  音はそこから鳴っていた。  中を確認してみると、 「…無線機?」  携帯用の小さな無線機と小型の情報端末が入っていた。もちろん軍用だがなんで こんなものが…。  無線機の会話スイッチを入れる。 『気が付いてくれたようね』  ライズだった。 『ゆっくり入院して欲しかったんだけど、そうも言ってられないから、随時情報を送れる ように、無線機と作戦用端末を渡しておくわ』 「ああ、判った。俺も戦況が気がかりだから、助かるよ」 『それと』 「ん?」 『なんだかバカにされたような気がしたから、次見舞いに行った時、覚えてなさい』  そう言うと、無線が切れた。  俺の脳内を勝手に読みやがった。なんて恐ろしい…。  夕飯までまだしばらく時間があったので、少し身体を動かしたいと思い、点滴スタン ドを持って病院内を探検する事にした。  避難口や消火栓位置なんかを確認する必要もあるし。  あんまり動くなとは言われたものの、軽く歩き回るくらいなら大丈夫だろう。  ナースセンターを避けて反対側のエレベータ前の案内図を見ながら、どこから回ろ うかと考えていたところ、 「や、やめて下さい!」  通路の奥の方から、女の子の声が聞こえた。  案内図によれば、声のした方向は洗濯室となっている。  緊迫感のある様子だったので、ガラガラと点滴を転がしながら向かった。 「困ります、やめて下さい」  洗濯室の入り口脇から中を覗いてみると、栗色の髪をした少女が、3人の男に迫ら れていた。  一人はガタイがよい大男。一人は金髪、一人は小さいサングラスをしていた。見る からにガラが悪そうな感じだ。 「いいじゃねぇか。ファンサービスだよ」 「別に何かしようってんじゃないんだ。せっかく生でドルファン王立歌劇団の歌姫に会 えたんだ、記念に一緒に飯食いに行くくらいいいだろ」 「病院内ですよ、人呼びますよ」  ジリジリと追い詰められている。 「今の時間、こっちの洗濯室に人は来ねぇよ」 「あんまり無理矢理な真似はしたくないんだけどなぁ」 「わ、私にもプライベートはありますし、今は用事もあるんです」 「だから、用事済ませたらでいい、って言ってるじゃねぇか」  どうにも、このままだと危険だな。仕方が無いか。 「おいお前ら、ここは病院だぞ」  ガラガラと点滴スタンド転がしながらだと、いまいち格好も付かない。 「んあ? 病人はあっち行ってろ」 「病人じゃない。むしろケガ人だ」  3人のうちのガタイの良いのが胸倉を掴んできた。 「すっこんでな、兄ちゃん」  仕方なく、左手でそいつのアゴをかすめた。  ガタイのいい兄ちゃんは一瞬動きが止まり、そのまま床に崩れ落ちた。  結構身体つきがいいからどうかと思ったが、見掛け倒しのようだ。脳震盪を起こして 完全に伸びている。  俺が一撃で大男を倒すのを見て、サングラスの男が立て掛けてあったモップを持ち 出したが、さほど苦戦するほどでもなかった。 「あ、あの、ありがとうございました。本当に助かりました!」  女の子が涙目で深々と頭を下げた。  3人に囲まれていた時は結構気丈な子に見えたが、実際は相当怖かったのだろ う。安心感からか半泣きになっている。 「いや、大した事じゃない。それより、お願いがあるんだが」 「…はい?」  きょとんとした顔で俺を見ている。 「警備員と、…看護婦さんを呼んできて…、くれ、ないか…」  女の子が俺の腹を見て、真っ青になった。  俺の足元に、ぱたぱたと血だまりが出来始めている。  点滴スタンドにしがみついて、実は立ってるのもやっとだった。 「は、はい! 待っててください!!」  ダッシュで駆けて行った。  どうやら今さっき、ちょっと、いや、だいぶ激しく動いたせいで腹の傷が開いたらし い。  服の上から押さえたら、とても気まずいものまで出てきてる感じ。  どのくらい傷が開いたのかは判らないが、遠くからガラガラと何かがやってくる音を 聞きながら、耐えがたい激痛に意識が薄れていった。 to be next >> comming soon maybe.