「月姫?‐1‐」


「お届け物って、俺に?」 「はい。昨日、有馬家のほうからお荷物が届いたんですよ」  二階から急ぎ足で降りてきた琥珀さんは、そう言ってにっこりと笑顔を浮か べた。 「荷物って、俺、自分の荷物は全部持ってきたよ。自分の物なんて着る服くら いなものだし……」 「そうなんですか? こちらが届けられたお荷物なんですけど」  琥珀さんは30センチちょっとばかりある、古臭くて細い木箱を手渡してくる。  持ってみると、ズシリ、と結構な重さがあった。 「琥珀さん、俺、こんなの見たことも無いんだけど」 「はぁ。なんでも志貴さんのお父さまの遺品だそうですけど。志貴さんに譲られ るように遺言があったとか」 「…親父が俺に?」  …それこそ実感など沸くものじゃない。  8年前に俺をこの屋敷から追い出した親父が、どうして俺に形見分けをするん だろう。 「まぁいいや。琥珀さん、これ部屋に置いておいて…」 「……………」  琥珀さんはじーっ、と俺の手にある木箱を興味深そうに見つめている。  なんだか玩具を欲しがる子どものような仕草だ。 「じーーーーっ」  …いや、子どもそのものだ。 「……わかりました。この箱の中身が気になるんですね、琥珀さんは」 「いえ、そんなこと無いです。ただ、ちょっと気になるなって」  ……だから、充分気になってるじゃないか。 「じゃ、開けてみましょう。せーの、はい」  スッ、と乾いた音を立てて木箱を開ける。  中には、………、木箱と同じ位の長さの金属のパイプのようなものが入って いた。 「………鉄パイプ……か?」  それにしては、なにやらゴツゴツと色々なパーツがくっついているし、使い古 されてところどころ傷が入っていたりする。  ……こんなミョウチクリンでワケのわからないものが俺に対する形見分けとは、 親父はよほど俺が気に食わなかったと見える。 「違います志貴さん」  琥珀さんは鉄のパイプを箱から取り出す。 「ほら、飛び出しナイフってあるじゃないですか。あれと同じみたいです。せーの、 はいっ」  プシュゥン、と音がしてパイプの先から1mくらいの、緑色を帯びた光の棒のよう なものが飛び出す。  軽く動かすと、ヴフゥゥン、と唸りのような音をあげた。  ……俺は呆気に取られる事しか出来ない。 「ずいぶん古いものみたいですけど、作りはしっかりしてますよ」  琥珀さんは光の刃(やいば)をしまってから、俺に渡してくれた。  渡されても、正直困る。  俺は、頭の中でぐるんぐるん回る思考を一旦横において、さっき琥珀さんがした ように、スイッチのようなものを押してみた。  プシュゥンッ、と緑色の光が伸び1mほどの光の棒になった。心なしか琥珀さん の時よりも少し長い気がする。 「そうそう。お上手ですよ、志貴さん」  ぱちぱちぱち、と琥珀さんが手を叩く。 「一人前のジェ…」 「学校行って来ますっ!」  琥珀さんの言葉を遮って、屋敷を飛び出した。  手に持っていた鉄パイプは、鞄の奥底にねじ込んだ。  あとは、学校で、黒い仮面をかぶったやつに出会わないのを、祈るだけだった。 中途半端に終い。



 川崎のヤツがライトセーバー持ってきてなんとなく思いついた。

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