ときめきメモリアル2


 −2−  その女子は、唐突に俺の目の前に現れたように見えた。  気が付くと、俺との距離、僅かに数歩の位置で、値踏みするような目つきでじっと 動かず俺を見ていた。  長いストレートの髪が強く風になびいても、気にする風でもない。  ただ、気の強そうな眼で俺を眺めていた。 「…なにか用か?」  呆れた声で問うても、返答は無かった。  この場で向かい合う事、すでに5分になる。いい加減にして欲しい。  俺は、カバンを肩に担ぎなおし、彼女を避けるようにして校門へと足を向けた。  だが、彼女の脇を通ろうとしたその時、彼女が動いた。 「手合わせ願うわよ」  言うが早いか俺の腕を掴み、身をかわす間もなくそのまま俺は投げ飛ばされ、背 中からまともに地面に叩きつけられた。辛うじて受身を取ったものの、あまり効果は 無かったようだ。 「く…」  一瞬息が詰まり、身体が息を吐き出そうと腹筋を収縮させる。その一瞬で彼女が 掴んだままの俺の右腕を極めに来た。  流れるような無駄の無い動作だ。  息を後回しにして身体をひねり、寸でのところで右腕を引いた。  次は左手だ。  もう一度、今度は右手で地面を跳ねつけて身体を回転させ、なんとか彼女との間 合いを確保した。 「かはっ、はぁ、はぁ、はぁ」  酸欠の身体を無理矢理に立ちあがらせる。  息が荒い。大きく空気を吐き出し、そして吸い込んだ。 「…格闘技をやめたにしては、それほど鈍い動きではないわね」  視線の先に、腕組をして立っている彼女がいた。 「合気道…いや、柔術ってやつか…?」 「どっちも正解。どちらかと言うと合気道のほうが得意だけれど」  無表情で言う。髪の乱れを右手で払うと、俺に向かって歩き始めた。 「やめろ、俺に戦う気は無い」 「私ももう無いわ」  さっきと同じ距離で止まる。  沈黙。  先に口を開いたのは、俺のほうだった。 「どう言うことだ」 「別に。光から話を聞いたから興味を持っただけよ」 「光? 陽ノ下光のことか?」 「そうよ」  無表情で彼女は言った。  『陽ノ下』と名字で言わない分近しい間柄なのかもしれない。 「気は済んだだろ、通してくれ」  俺は脇に落ちていたカバンを拾い、2、3度埃をほろった後、さっきと同じように肩に 担いだ。 「理由を、聞かせてもらえないかしら」 「なんのだ?」 「格闘技をやめた、と光に言った理由よ」 「やめるのに理由が要るのか?」 「ふん、…あくまでとぼける気なのね」  彼女は一瞬鋭い視線を俺に向け、踵を返してさっさと校門から出ていってしまった。  彼女の姿が校門から見えなくなったところで、俺の背後から光が歩いて来た。  カバンを持っているから、帰るところなんだろう。 「よう」  入学式の一件以来、俺たちは口を聞いていなかった。  光のほうが俺を避けていた。  だから、声をかけても無視されると思っていた。 「あ…、公一…」  少し距離を置いて立ち止まる。 「帰るところか?」  返事は無い。光は、視線を俺に向けたまま、なにか言いたげな風に口を動かした が、なにも言わずにそのまま俯いてしまった。 「…」  ふう、と小さく息を吐いた。こう言う重苦しい空気は苦手だ。 「光、話がある。ちょっと時間いいか?」  そう言うと、うつむいたまま視線を俺に向け、ちいさくコクリとうなずいた。 「河川敷に行こうぜ。あそこなら、静かに話せる」  光はまた無言でうなずいた後、俺の後ろをトボトボと付いてきた。  河川敷に着くまで、俺の後ろから離れることなく。    どこかしら、強い既視感を感じた。 つづく(続けるのか??)



 某、格闘系マンガを読んで、つい…

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