[資料6−1 布川事件 第2次再審申立について

   平成13(2001)年12月6日               布 川 事 件 弁 護 団


【 はじめに 】

 本日桜井昌司、杉山卓男両氏は、日本弁護士連合会の支援を得て「布川事件」について、水戸地方裁判所土浦支部に第2次再審を申立てた。

 布川事件というのは、今から34年前の昭和42(1967)年8月30日茨城県北相馬郡利根町大字布川でおきた強盗殺人事件について、全く関係のない両氏が逮捕されて裁判にかけられた事件である。両氏は一貫して無実を訴えたが、警察・検察・裁判所に容れられず無期懲役の判決を受けた。両氏は、昭和58(1983)年獄中から第1次再審を申立てたが、これも棄却された。両氏は、5年前の平成8(1996)年、獄中29年にしてようやく仮釈放され、その後結婚、現在会社勤めをしているが、なお無罪判決を求めて本日第2次再審を申立てたものである(経過の詳細は後記のとおり)。

 

1 警察・検察が自白調書で描き、確定判決が信用したストーリー

 自白調書及び確定判決によれば、両氏は「8月28日午後6時30分ころ常磐線我孫子駅でたまたま出会った。成田線に乗って布佐駅で下車、徒歩で栄橋まで来たところで、競輪の遊興資金の捻出のために知り合いの被害者に金を借りうけることを相談した。2度にわたり被害者宅を訪れ借金を申し込んだが、激しい言動で拒絶されたため、暗黙のうちに強盗を共謀して、午後9時ころ被害者宅8畳間において両名で被害者を扼殺し、現金10万7000円を強取した。その後誰か知らない人が入ったように偽装するために、2人で8畳間と4畳間の間のガラス戸を2枚とも外し(その際ガラスが数枚割れた)、桜井が便所の窓の桟を壊してそこから脱出し、午後9時53分布佐駅発の成田線に乗って、東京中野区に逃げ帰った」とされている。

2 検察が提出し、裁判所が採用した証拠(構造)の特徴

(1) 指紋を始め何の物証もなく、供述証拠に全面的に依存している。

(2) 直接証拠は自白調書だけであり、これもその任意性・信用性に重大な疑いがある。

@両氏は、別件で逮捕・勾留・起訴中本件の取り調べを受けた。何の関係もなく身に覚えがない事件なので否認し、下記アリバイを主張したが、警察・検察はこれを信用せず、「目撃証人がいる」「否認すると助からない」などと言って自白を強要・誘導した。苦しさに耐えきれずに嘘の「自白」をした。

A変遷・食い違いが著しく、客観的事実とも矛盾し、供述の大要も内容も不自然、不合理な点が多い。

(3) 自白を支える6人の目撃証言もあやふやで信用できない。

@犯行自体の目撃証言ではない。( 犯行の頃、近くで見たというだけ )

A最も重要なW証人の証言「犯行当日午後7時30分過ぎ、バイクで時速30キロメートルで被害者宅前を往復した。被害者宅前に両氏が立っていた。」は、事件の半年後に突然出てきた証言で、確定審でも帰路部分の信用性を否定されている。

Bほかの5人は、別の日の目撃を犯行当日のことと間違っている。

(4) アリバイ

@桜井氏は、8月28日午後7時ころから東京都新宿区高田馬場の「養老の瀧」で飲食、午後9時ころから中野区野方の兄のアパート「光明荘」に寄った後、兄の勤めるバー「ジュン」で飲食、午後10時過ぎ「光明荘」に戻ったら、杉山が来ていた。午後11時過ぎ、隣のアパートに窓越しに渡って缶詰1つ盗ってきた。

 杉山氏は、午後7時ころから中野区新井薬師の映画館で映画を見て、午後10時過ぎ「光明荘」に行った。間もなく桜井が来た。午後11時過ぎ、桜井が隣のアパートに窓越しに渡って缶詰1つ盗ってきた。

 その晩、両氏は「光明荘」に泊まった。

Aしかるに警察・検察は、このアリバイを否定して裏付け捜査を行わず、裁判所もこれを追認した。

3 第2次再審で提出した新証拠 (新証拠目録のとおり)

(1) 物証、指紋がないのは、無実の証拠

 新証拠 @ 〜 B 指紋実験、新証拠 C 汗の実験

( 現場再現実験の結果、桜井の触れた場所(ロッカー、机、紙など)から桜井の指紋を84個採取、うち11個が桜井の指紋と一致 )

 素手で物色したとの自白調書は、現場から桜井の指紋が1個も出なかったことと矛盾し、自白調書の信用性を失わせ、同時に桜井が現場に居たこと、犯人であることに直接合理的疑いを抱かせる。

(2) 自白調書の任意性

 新証拠 D 〜 G 桜井の獄中日記 (昭和42.11.27から45.10.6までの日記−45年10月第1審判決の後、宅下げされて桜井の実家に埋もれていたものを仮釈放後発見) 警察、検察の取調べ時の強制、偽計、誘導の詳細が暗号交じりで記載してある。

 また、桜井が「真実を貫き否認すれば死刑になる、それよりもここはひとまず犯人を演じて犯行を認めて懲役にしてもらい、出所後に自分で真犯人を捜し出すしかない」との思い込みから、虚偽自白をしたことが記載してある。自白の任意性・信用性のないことが明らか。

(3) 自白調書の信用性

 自白調書の内容は、変遷・不自然・不合理な点が多く、また現場の客観的状況と矛盾しており、信用できない。

 新証拠 HI ガラス戸実験

 ( 現場再現実験の結果、ガラス戸を蹴ってもガラスは割れない・木部に損傷は生じない )に照らし、ガラス戸を蹴ったらガラスが割れたとの自白は信用性を失い、ガラス戸の損傷は蹴ったことによるとの事実認定に合理的疑いが生じ、同時に偽装工作としてガラス戸をわざと外したという自白の不合理性が益々明らかとなった。むしろガラス戸の倒れ、破損や床落ちは、格闘の際生じたと見る方が合理的。

(4) 目撃証言

 新証拠 J 目撃実験 ( W証人の目撃状況の再現実験 )

 被験者65名に24枚の写真の中から目撃した人を選ばせたところ、正答率は、3.3% 6.6% 8.6% 6.8%で、偶然確率 ( 1÷24=0.0416 ) 4.16%の近似値。よって、W証人はほとんど識別不可能の筈で、その証言は信用できない。

(5) アリバイ

 獄中日記により、アリバイ主張は警察・検察の取調べの前後を通じ、時間的にも内容的にも一貫していたこと、信用できることが明らかになった。

 

【 誤認逮捕 ― 誤起訴・誤判の原因と司法改革 】

1 誤認逮捕・誤起訴・誤判の原因

(1) 警察や検察が、怪しいと嫌疑をかけた市民を客観的証拠もないのに逮捕・勾留し、自白を強要、誘導して自白調書を作成し、これに合う供述証拠を集めて起訴する。

 裁判所が、起訴事実や捜査結果を鵜呑みにして、その間違いに目をつぶり、時にはこれを補正までして有罪判決を言い渡す。

 死刑再審無罪事件 ( 免田、財田川、松山、島田 ) を含むおおくの冤罪・再審事件の原因は、みな同じである。

(2) これらの間違いの大もとには、警察・検察・裁判所の身内意識がある。裁判官は「警察官や検察官の言うこと、なすことは常に正しい。被疑者・被告人にされるような市民の言うこと、なすことはおおむねあやしい」と考えている ( 有罪を推定している ) といわざるをえない。

 最近、警察の不祥事が多発している。幹部が、部下の犯した明白な犯罪を隠して、黒を白と言って嘘をつくことさえある。また、検察官による捜査情報の不当漏洩、更には裁判官の不祥事すら報道されている。

 裁判官の警察・検察に対する「盲目的」とも言うべき信頼意識の改革こそが緊急課題である。

2 あるべき「司法改革」

 しかるに、今問題になっている「司法改革」論議の中で、誤認逮捕・誤起訴・誤判の原因調査や再発防止策が真剣に検討された跡は見られない。

 司法は本来、正義の最後のよりどころの筈である。無実の者を有罪にしたままでは「正義」もなければ「司法改革」もない。

 

【 第2次再審の意義 】

 裁判所が「予断と偏見」を捨て、「有罪推定の意識」を改め、白鳥・財田川決定の明示した「新旧全証拠の総合評価」「疑わしきは被告人の利益に」の原則に立つならば、本件の無実は明らかである。

 本件につき、第2次再審を開始して無罪判決をなすことは、正義を実現することであり、同時に司法の権威を回復することでもある。

 弁護団は、今度の第2次再審で警察・検察・裁判所の間違いをただし、無実の者に無罪の判決というごく当たり前のことを実現するために、多くの市民の方々とともに全力を尽くすものである。

以  上 

 新証拠目録

証拠番号

表   題 (内容)

略   称

作 成 者

作 成 日

新証拠1 実験報告書第1分冊 荒居実験報告書1 社団法人未踏科学研究所荒 居  茂 夫 1998. 1. 5
新証拠2 実験報告書第2分冊 同   2 社団法人未踏科学研究所荒 居  茂 夫 1998. 1. 5
新証拠3 実験報告書第3分冊 同   3 社団法人未踏科学研究所荒 居  茂 夫 1998. 1. 5
新証拠4

桜井昌司氏および杉山卓男氏の手掌発汗能について

菅屋実験報告書

愛知医科大学第2生理学教室 教授   菅屋潤壹 

2001. 4. 9
新証拠5 桜 井 の 日 記 2 獄中日記 No.2 桜 井 昌 司 S42.11.27〜 11.30
新証拠6 桜 井 の 日 記 3 獄中日記 No.3 桜 井 昌 司 S42.12.24〜  1.31
新証拠7 桜 井 の 日 記 4 獄中日記 No.4 桜 井 昌 司 S43. 2. 1〜  4.30
新証拠8 桜 井 の 日 記 5 獄中日記 No.5 桜 井 昌 司 S43. 5. 1〜  5.31
新証拠9

「ガラス障子実験」報告書

新井実験報告書

岐阜工業高等専門学校
 教授 新井 英明
 

1991. 9. 1
新証拠10

ガラス戸の破損に関する鑑定書

直井・河井鑑定書

東京理科大学工学部第2部
 教授 直井 英雄
 助手 河合 直人

1992.10.30
新証拠11

布川事件における渡辺昭一証人の目撃証言の信用性に関する鑑定書
記憶心理学および目撃証言心理学の立場から

厳 島 鑑 定 書

日本大学文理学部心理学研究室
 教授 厳島 行雄

1999. 5.22
新証拠12

@人権救済申立事件に関する調査協力依頼
A気象資料の照会について(回答)

地上気象観測日原簿又は大気現象記事

@日弁連人権擁護委員会
 委員長 村越 進

A東京管区気象台長
     高橋 昭

2001. 9.11

2001. 9.19

新証拠13

朝日新聞縮刷版(1967No.554)新聞番組一覧

朝 日 新 聞 社 S42. 8.28

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